映画は2回目が面白い! 僕らは鑑賞者という名の「共犯者」 ~映画鑑賞に於ける慣れと鑑賞技術の関係

2020/08/09

えー、昔から「結婚する前は両目でお付き合い」「結婚した後は片目でお付き合い」なんてぇことを申します。結婚する前は相手の良いところも悪いところもしっかり見て判断しましょう、結婚した後は相手の良いところだけを見るくらいのほうが円満にいく、ってなものでして・・・(とある落語の枕詞より)

久々の不定期コラムです。
 
『 映画館で同じ映画を観るのは1度だけ、同じ映画を 2度も3度も
繰り返して観るなんて、マニアな人はちょっとどうかしてるよね。
だって映画って何度上映されても内容は変わらないんだし、
初見のときの新鮮味 を上回るなんて絶対ないワケだから・・。 』
 
 
そう思っていた時期が私にもありました。

 
 

 
私は2015年末の「ガールズ&パンツァー劇場版」から急にアニメ映画を
あちこちの映画館で「繰り返し」観ることに目覚めた人間です。
 
それまでも単発で劇場映画を観ることはありました(基本アニメだけですが)。
でも上述したように、同じ映画を2度も3度も繰り返し観るという気持ちは
理解ができていませんでした。いわゆる来場者特典商法みたいなものも相まって
グッズをもらうために同じ映画を何度も観に行くのは苦行でもあるのでは?
というくらいの認識を持っていました。
 
 
それから時は経ち、ガルパン劇場版の登場によって、色々な音響の映画館で
聴き比べるという映画の新しい楽しみを知ってしまってからは、その印象も
ほとんどなくなり、楽しみにしていたアニメの新作映画公開時には
同じ映画を3度も4度もリピートすることが多くなりました。
 
ですがこの段階でも私は、異なる映画館、異なるスクリーン、異なる音響で
体験するからこそ新鮮味が薄れずに何度も観るとができる、
複数回の鑑賞で映画そのものの新鮮味は減衰していくことは変わりない、
と、そういう考え方を持っていました。
 
 
 
ところが、
 
しばらく映画館に通い詰めていくうちに、根本的な考え方が間違って
いるのでは、と思い始めたのです。
 
 
『 1回目よりも、2回目のほうが楽しかった映画が多い 』
 
 
いや、むしろどんな映画も、2回目が一番楽しめているのでは??
そんな気持ちが芽生えてきたからです。
 
 
詳しくはこのあと説明しますが、もしそんなことがあったら一大事です。
だって、過去の私を含め一般人の常識というものはおそらく、
 
「映画は1回見れば十分。2回目からは新鮮味が減るだけだから。」
 
という気持ちだろうと思われるからです。もし2回目のほうが1回目よりも
楽しめる可能性が高いなんて、そんなことがあり得るなら、ほとんどの人が
同じ映画を2回以上観ないというこの状況とどう折り合いを付ければよいのでしょうか。
 
 
今回はそんなお話です。
 
 
 
 
私が「映画は2回目が楽しい」という言葉を初めて意識したのは、
確か、SQ31,さん (@sq317) のツイートでこれを枕詞のように使われていたのを
見たからだったと思います。(これが映画鑑賞界隈ではよく言われている
言葉なのかどうかは私は把握していません)


私自身はガルパン劇場版(2015)、劇場版SAO(2017)、リズと青い鳥(2018) など
沢山のリピートを繰り返してはいましたが、その頃も「2回目」についてはまだ
自覚的ではありませんでした。初めて「2回目」の謎に自覚的になったのは、
そう、たしか 「ニンジャバットマン」 だったと思います。
 
 

 
この日わたしはイオンシネマ幕張新都心で「ニンジャバットマン」を2回連続で
鑑賞しました(1回目はキャスト舞台挨拶回、2回目は岩浪さんトークショー回)
 
「1回目」は、明らかに 「超困惑」 としか言いようがなかったのです。
それも「超困惑(誉め言葉)」というニュアンスではなく、
どちらかといえばネガティブな感情も含んだ上での困惑でした。
無茶苦茶をやりまくったのはいいが、カオスすぎて全然消化できなかったぞ、と。
 

 
ところが続けて鑑賞した「2回目」では、
その印象は180度、とは言わないまでもかなり変わることになります。
 
ひと言でいうと 「楽しみ方が分かってきた」
 

 
「ニンジャバットマン」はそういう意味ではとても顕著な例ではありますが、
他の作品でも多かれ少なかれ同様の現象が起きていることに、
私は徐々に自覚的になっていきます。2019年には
 
「HELLO WORLD」
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 永遠と自動手記人形」
 
あたりがこの 「2回目の謎」 を感じる作品でした。でも、それは作品の特性に
因るものではない、多かれ少なかれどんな作品でも同じような感情が起こる
ものなのだ、と整理できたのはだいぶ後のことです。
 
 
 
「初回」の鑑賞と、「2回目」の鑑賞のあいだに、いったい何が起こっているのか?
「HELLO WORLD」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝」の内容に
ちょっとだけ触れながらお話をしたいと思います。
 
 

 
「HELLO WORLD」 という映画は上映時間 「98分」の作品 です。
初見のあとで知った情報を元にして語るならば、作品の中盤、だいたい 「50分」
くらいのところで、一度クライマックスっぽい感じの盛り上がるアクションシーン
が訪れます。そのあとストーリーは大きく姿を変えて動いていきます。
 
なるほど、中盤の盛り上がりなのね、と思ったアナタ、
 
 
 それが「中盤」である、という知識は、
 
 
どこから得たものでしょうか?
 
 
 
 
・・・・。
 
 
映画館という空間は当然ながら時計を確認できる環境ではありません。
そんな中で、目の前で繰り広げられるストーリーを「現実側の時間軸」
を意識して 体内時計で感知 できる人は多くありません。
 
 
「上映時間100分くらいって言ってたな、ということは今だいたい中盤くらいか」
 
 
なんてイメージしながら観ることはなかなか難しいことと思います。
私がこのシーンを「初見」で観たときの正直な感想は、
 
 
「ん?ここがクライマックスか?もうそんなに経った?このまま終わるの弱くない?」
 
 
というものでした。結果的にそこは「中盤」であり、もうひと山が後半に
控えていることが分かります。しかし、一度ここがクライマックスだと思って
気を張って観ていた私は、後半に入る頃には 気力が尽きかけて いました。
 
 

 
初見の段階で、目の前で繰り広げられる映像が序盤なのか中盤なのか終盤なのか
を把握できることはなかなかありません。言葉を変えれば、
 
「時間軸」をコントロールする術を
 
鑑賞者はまだ持っていません。そのため、自分の気持ちの盛り上がりを、
映画の盛り上がりに「合わせる」のは至難の業です。終わりの見えない
流れの中で、たとえば自分にとってパッとしない苦手なシーンが来た場合、
「これいつまで続くんだろ・・」といった感情も増幅されてしまったりします。
 
 

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 永遠と自動手記人形」の
上映時間は「90分」ですが、これは実は 「45分」「45分」の
二部構成 ともいえる構成になっています。
 
私は初見のとき、明らかにこれを読み違えていました。45分のところで
ある程度決着がついて、ここで終わりかと思ったらまだシーンが切り替わる、
これは 「エピローグ」 があるんだな、という理解しかできていませんでした。
まさかここからさらにまるまる「45分」もう1つの物語が進んでいくなんて。

 
「ニンジャバットマン」にせよ「HELLO WORLD」にせよ「ヴァイオレット」にせよ、
「2回目」の鑑賞で得た感覚 は初回とは驚くほど違っていました。
ここは中盤の盛り上がり、ここはまだ半分が終わったとこ、、、
 
私はもう「時間軸」をコントールできるのです。
 
 

 
ここには2つの視点に注目します。
1つめは、上述したとおり、「全体」という視点が既知であることによって、
物語の感情の起伏に合わせて自分の感情を盛り上げていけること。
 
2つめは 「好きなシーン」と「苦手なシーン」 を認識しつつ
上手く使い分けていけること。
 
どんなに自分好みの映画でも、その長い時間の中にはどうしても、
大好きなシーンだけではなく「ここはちょっと苦手だな」「ここはパッとしないな」
と感じるシーンも含まれています。時間軸を支配できない初見の状態では、
この苦手なシーンの時間を把握できないため、ものすごく長く感じてしまいます。
 
「2回目」、すなわち全体像を把握済みになったあとは、この感覚が全く違います。
「好きなシーン」はこの辺に来る、「苦手なシーン」はこの辺に来る、
というのはだいたい把握できています。苦手なシーンもこのくらいですぐ終わる、
といったことが知識として分かっていれば、好きなシーンを積極的に 浴びに行き、
苦手なシーンは心のシャッターを少し閉じ気味にして観る、なんてこともできます。
 
場合によっては、全て把握したあとに「苦手だったシーン」は「好きなシーン」
の伏線として新たに「重要な意味を持つシーン」に上書きされるかもしれません。
 
 
 
全体を把握したあとの「2回目」の鑑賞は、
こうした重大な「変化」を含んでいるということなのです。
 
これを私は、
 
 
「この映画の 『楽しみ方』 が分かった」
「この映画を 『観るのが上手く』 なった」
 
 
と考えることにしました。逆に言えば、どんな映画であっても、
初見の段階では「その映画を観るのが下手」だという話になります(!)
 
それは深い考察が出来ていないからとかそういう難しいお話ではなく、
単純に「全体」を把握していないから、自分から感情を合わせて
盛り上がる術を持たないためです。いわば初見の段階では毎回
「即興劇」に向き合っているようなものだとも言えます。
 
 
もちろん、これは特定の一面をみた場合だけのお話です。
 
話を大きく最初に戻しましょう。
映画を鑑賞する際の初回の醍醐味とは間違いなく 「新鮮味」 です。
 
 

 
これは何かの数値ではなく完全なイメージ・模式グラフですので恐縮ですが、
映画を何度も観る、といった場合に思い浮かべるのはこんな図なのでは
ないかと思います。
 
満足度の中でベース部分に「自分の好みに合っていたか」という基礎点
のようなものがあり、そこに加えて初見であることが大きく加点となる
「新鮮味」が上乗せされてきます。そして2回目以降は繰り返せば繰り返すほど
新鮮味がグングンと減少 して無くなっていってしまう、というものです。
 
この上図でいえば、2度、3度と繰り返し観る意味なんてそんなに無いよね、
という結論になるのも頷けます。
 
しかしここに、今回ここでご説明した映画に於ける「観客側」の鑑賞スキル
という概念が加わることにより、認識は大きく変わります。
 

 
鑑賞者の鑑賞技術、すなわち 「楽しみ方を覚える」 ことは、
満足度に大きな影響を及ぼします。するとどうでしょう、
時間軸をコントロールできない「1回目」の鑑賞時点では、
鑑賞スキルはほぼゼロに近いものです。1回目と2回目の間には
 
「全体を把握できていない」← →「全体を把握し切った」という
 
という 天と地ほどの違い があります。3回目以降もまた「見どころ」を
見つけていくことで鑑賞技術はじわじわ上昇すると思いますが、
劇的な差が生まれるのはやはり1回目と2回目のあいだでしょう。
 

 
これを合算したイメージ、、、もちろん、単なるイメージですので、配点が
とか細かいことはご容赦ください。あくまで「考え方」として、2回目以降は
「新鮮味」が減るから1回目より絶対楽しくないはずだ、という論理に対して
異なるファクターが存在することを議論する為だけの図です。
 
1回目と比較して2回目は「新鮮味」が減衰していることは確実です。
しかし「鑑賞スキル」というもう1つの視点が急激に上昇するがゆえに、
2回目の鑑賞の満足度が1回目の鑑賞に勝るとも劣らない、あるいは
1回目の鑑賞を上回ることすら十分あり得る、ということが、
何となくお分かり頂けるのではないかと思います。
 
 
ただし、ここには注意点があります。「楽しみ方が上手くなる」というのは
あくまで 鑑賞者の主体性 に支えられているものだ、という点です。
鑑賞者の側から寄り添って「もっと上手く楽しんでやろう」という思いがあれば、
2回目の鑑賞から受ける印象は格段に違って見えることになるでしょう。
 
自分の「好き」を記憶しておいて、それが来る瞬間に自分の気持ちの
盛り上がりを合わせて爆発させる、自分の「苦手」を記憶しておいて、
それが来たときも「すぐ終わるから」と気持ちに折り合いをつける、、
 
そうした気持ちの変化をポジティブに使い分けることができれば、
1回目よりも2回目のほうが 「その映画」を上手く観る ことができる、はずです。
 
 
鑑賞スキルはあくまで「その映画」専用の知識を活用することですから、
映画マニアだからスキルが高い、だから初見から確実に楽しめる、といった
類のものではありません。1回目の知識を上手に使うことで、
 
 
鑑賞者は2回目の映画を楽しむ「共犯者」になれるのです。
 
 
そして3回目以降も楽しめるかどうかは、貴方がより上手い「共犯者」に
成れるかどうかに掛かっています。
 
 
今まで「映画は1回観るだけで十分」と思っていた方も、
「2回目の変化」を上手く味方に付けることができたなら、
映画「鑑賞」に対する認識も大きく変わっていくかもしれませんね。
 


2020/08/09 [updated : 2020/08/09 05:33]


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ckom 2020/08/09
セルクマ。映画鑑賞に於いて「1回目」と「2回目」の間に訪れる大きな変化のお話です。
NOGjp 2020/08/09
これはよく分かる感覚。1回目は話追うのにいっぱいいっぱいだったりするよねー
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