オレ様が買った曲を、オレ様が聴けない不思議

2004/10/21

[「私の知らないところで勝手に音楽を聴いてもらっちゃ困る」
「私の知らないところで勝手に音楽を聴いてもらっちゃ困る」]
の続きです。JASRACの方がP2Pによるファイル共有を目の敵にする事情は良く理解
しているつもりです。「違法P2Pへの法的措置」「ISPと協力した追跡システム」
「ウォータマークの導入」などの強硬姿勢は、そうした彼らの置かれている心境
を如実に示していると言えるでしょう。
 
一方で「50年→70年への延長」「iPodから私的録音補償金」なんていうのは、
 
 混乱に乗じた便乗値上げ
 
みたいなもので、マジメに取り合っていたら時間がいくらあっても足りません。
その辺りを、掘り下げはしませんが、判りやすく簡単に整理してみましょう。
 
1枚目の図を見てください。音楽業界として「絶対に許せない領域」、それは
お金を1円も払っていない人 がタダで音楽を楽しんでしまう、
というケースです。お金を払っていない人が音楽を手に入れるということは、
誰かがコピーして渡したということですから、「コピー許すまじ」です。
 
一方、リスナーにも絶対に譲れない線があります。それは
 
 オレ様が買った曲を、オレ様が聴く
 
というアタリマエの領域を侵すな、ということです。自分が買った曲を自分が
聴くときに「違法だ」と咎められる、こんなバカバカしい話はありません。
 
良く見てみると(良く見なくても)判りますが、この両者の領域は、互いに
ぶつかり合っていません。リスナーは「オレ様の買った曲」が必ず聴ければ
満足ですし、音楽業界は「タダ聴きしている人」が居なければ満足なのです。
 
では2枚目の図に行ってみましょう。ご想像の通り、今までのコピー制御技術
の類は、このセンターラインを忠実に守った例は1つもありません。
OpenMGも、Windows Media DRMも、放送の世界でのコピーワンスも、着うたも、
全て同様です。「オレ様が買った曲をオレ様が聴く」ことを、何らかの理由を
付けて邪魔してくるやり方しか存在しませんでした。
 
何故「オレ様が買った曲」をその「オレ様」が聴けないのか、
そう問い掛けると判を押したように、必ずこう答えが返ってきます。
 
 だっておまえら、コピーしてタダ聴きする気だろ?
 そうはさせるかってんだ
 
3枚目の図を見てみましょう。音楽業界は、自分たちが商品を創る側である以上、
自分に不利な線は絶対に引いてきません。従ってキレイに真ん中に線が引けない
のであれば、リスナー側を蹂躙する線を平気で引いてきます。
これではリスナーは、生活シーンに合わせて何度も何度も、同じ曲を聴くために
お金を払い直さなければならない、という事態に陥るでしょう。
 
一見、音楽業界が利益をブン取り、リスナーが迫害を受けているような構図に
見えますか? だとしたらそれは認識が不十分です。なぜなら、リスナーにとって
「音楽」の価値が減っているということは、音楽を買いたいと思う人の数が
減っていくことに他ならないからです。迫害を受けつづけて、なおも言い値で
買いつづける奇特なリスナーなど、そうそう沢山居るものではありません。
 
すなわち、あの 「センターライン」 は、
 
 どちらにズレても結局、業界は縮退する
 
のです。今、音楽業界はそれに気が付いている人と、気がついていない人が、
内部でせめぎ合いを起こしている状況に見えます。顧客に提供する商品の
価値自体を削ったら、顧客自体が減少する、そんな経済の常識問題を、
音楽業界はもう一度噛み締め直して葛藤している最中なのです。
 
センターラインをどうやってキレイに引くか、その問いに答える上で重要なのは
実は小寺信良氏も挙げていた「個人認証」なのではないかと、私も考えています。
ちょうど1年前くらいに、自身のサイト「Exrouge Fever」の雑談掲示板でも
話題に出した「楽曲を聴く権利」。実は最初に言い始めたのは、
日本にはまだCCCDが上陸もしていなかった2001年9月頃だったのですが、
その話についてはまた後日のエントリでお話したいと思います。


2004/10/21 [updated : 2004/10/21 17:11]


この記事を書いたのは・・・。
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▼ コメント ▼

No.66   投稿者 : highfrontier   2004年10月21日 18:53

>これではリスナーは、生活シーンに合わせて何度も何度も、同じ曲を聴くために
>お金を払い直さなければならない、という事態に陥るでしょう。

そういう事態はいやですよね。
先月の時点で、自ブログ{
http://blog.livedoor.jp/highfrontier/archives/6806576.html
)にアナログ経由でコピー手順を一通りやってくれるソフトの話に触れました。
そのときは正直心の中では「こんなの使うような事態にはならないだろーなぁ」と思っていました。
けれども。取りあえず今この状況では買ったそばからアナログ経由で音楽ライブラリを作るしかないと覚悟を決めました。
ただ、そのときネタ元ニュースの副題に(日本以外では)の注が付いていました。
このときは「"アナログにしたとしても"DRM付き楽曲を別のデバイスに物理的に移動してはいけない」と言う法律条文があるのか、
「"アナログにすれば"移動してもよい」のか、表現がわかりにくかったんですよね。
で、(自信はありませんが)今は後者だと勝手に解釈しています。


No.68   投稿者 : CK   2004年10月22日 10:21

●highfrontierさん
私もアナログが凄く貴重に思えるようになってきました(笑) J-COMの契約をデジタルに変えないのもその為です・・・。
結局のところデジタル技術の進化というのは、「一般ユーザがやれることを増やす(有能にする)」ことでありますが、
逆にベンダ側から言えば、「一般ユーザは無能のままで居てくれなくては困る」のですよね~。そこに両者の乖離があるような気がします(´~`)

 >ただ、そのときネタ元ニュースの副題に(日本以外では)の注が付いていました。
 >このときは「"アナログにしたとしても"DRM付き楽曲を別のデバイスに物理的に移動してはいけない」と言う法律条文があるのか、
 >「"アナログにすれば"移動してもよい」のか、表現がわかりにくかったんですよね。

これは、あまり「現在の条文がどう解釈できるか」に焦点を絞らないほうが良いかと、私は思います。
『彼ら』は、「条文は『彼ら』の利益を損なわないように解釈すべきだ」と言うでしょうし、
「解釈次第で『彼ら』の利益が損なわれる可能性がある条文は、『彼ら』の利益が損なわれない形に修正すべきだ」と言うでしょう。
すなわち、法律は善悪の基準を示しているのではなく、『彼ら』の利益を損なわない条文だけが掲載されている日記帳にすぎません。
これは音楽CD輸入権の件でもハッキリと思い知らされた方も多いかと存じます。

リスナー側の主張を聞き入れてもらうには、その主張とかけ離れたやり方では商業活動自体が成り立たなくなることを経済の土俵で
認識させてあげるしかないような気がします。いくら「要望」を出しても、きっと「サイフに響かない限り気が付かない」でしょうね・・・。



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