立ちはだかる「記録」というコスト - スコア記録とライフログの大きな「壁」

2009/07/18

久々にコラムです。こんばんは。
 
■2009/07/17 [ネット麻雀「雀龍門」で4級まで到達 - データで楽しむマージャンの醍醐味
ネット麻雀「雀龍門」で4級まで到達 - データで楽しむマージャンの醍醐味]
長く打っているとちょっと新鮮に感じてくるのが対戦データです。要するに自分の 過去のデータが蓄積 されて表示されていきます。
昨日の記事では 雀龍門のデータ を細かく見ていきました。
牌譜までは残りませんが、こうして克明に残った戦跡データは
ゲームそのものの見方を変えるくらい色々なことを教えてくれます。
 

 
今まではゲーム、あるいはスポーツにおいて、
自身のプレイデータを克明に記録するというのは、
 
 プロフェッショナルにしか許されない贅沢
 
でした。
 
プロ野球選手 の打率や防御率などを見てもわかるとおり、
ああしたデータが正確に計算されて出てくる裏では、とても多くの
手間が掛けられています。見世物としてのプロでなければ、
ここまでのデータはとても取ることはできません。
 
高校野球でも、データが記録されるのは公式戦のみで、それを多くの
回数を経て分析できるレベルまで蓄積できるのは一部の強豪校だけです。
ほとんどの人は自分の正確な打率を意識したことすらないでしょう。
 
それに比べてネット麻雀でのデータは、誰でも正確に記録されていきます。
 
これはもちろん麻雀に限ったことではなくて、ネット将棋 でもネット碁でも
それ以外のあらゆるゲームでも、同じようなことを経験している方は多いと
思います。そこでは、前述のプロ野球選手のように、自分自身の戦いの歴史が
分析されて数字として現れてくるのです。多くの 「素人」 がこうしたデータを
得ることができるというのは、近代ゲームの大きなトレンドの1つといえます。
 
なぜこうしたデータを細かく取れるようになったのかといえば、
それは考えるまでもなくわかることですが、
 
 ゲーム自体がデジタルの世界で行われるから
 
です。また、データを保存するコストが劇的に下がったからという理由も
あります。昔だったらスコアを記録していくだけであっという間に 容量
足りなくなっていきました。今ならそういうことはありません。
 
先のプロ野球の例でもわかるとおり、スコアの記録欲求というのは、
実は純粋なデジタルゲームではない スポーツの分野 でも
非常に強いものがあります。
 
たとえば、ゴルフ、ボウリングなど はその最たる例で、過去のデータが全て
残っていてそれを集計してくれたらと誰もが思うでしょう。私はゴルフを
やりますのでよくわかりますが、自身のOB率、フェアウェイキープ率、
パーオン率、平均パット数などが集計されるにとどまらず、コースごとの
難易度をほかのプレイヤーの平均値と比較して見るといったことまでできたら
どんなにゴルフの世界が広がっていくだろうというワクワク感を感じます。
 
ほかにも 陸上競技全般やレース などの分野で活躍される方は、ひたすら克明に
データを蓄積してくれたらと思うことが少なくないでしょう。
 
 
ただ、こうしたことは誰でも 「出来たら良いな」 というレベルまでは
簡単に考え付きます。実際にこれがなかなか身近なレベルで実現されないのは、
ひとえに先ほどのデジタルゲームと違って、リアルなスポーツに対する
「記録」のコストが高すぎるから です。
 
たとえば上述のゴルフの例でいえば、「ゴルフダイジェストオンライン」
ではスコアの記録サービスを行っています。全国のゴルフ場の
基本データが登録されていて、そこに自分がいつ行って、
いくつ叩いたか、というのを記録・集計することができるのです。
 
■スコアを簡単分析・管理!利用料:無料 -GDOスコア管理-
http://www.golfdigest.co.jp/score/opening/
 
しかし、実際に見てみるとわかりますが、Webのフォームから18ホールの
スコアをこつこつ入力していくだけで、これはそれなりの手間になります。
先のデジタルゲームと異なる点は、これが自動入力ではないという点です。
ネット麻雀を打っているときには、わたし自身はスコアを「記録」するなんて
意識したこともありませんでした。リアルのスポーツではどうしても誰かが
手間を掛けてスコアを記録・入力してデジタルの世界に乗せなければなりません。
 
ボウリングの世界では、スコアが自動で計算できうるぶん、
ゴルフより進んでいます。たとえば指定のボウリング場でメンバに
限って全てのスコアを記録後にIDと紐付けて転送記録してくれる
「ボウリングコロシアム」 などがあります。その記録を
ネットに乗せて雀龍門と同じように級を決めていくという仕組みです。
 
■ボウリングコロシアム
http://www.bcolo.com/
 
ただし、これもあくまで指定のボウリング場におけるスコアの記録に
限られます。全てのスコアを記録しようと思ったら、全国のボウリング場が
同じ記録システム を採用してくれるくらいでないと難しいのですが、
ボウリング自体もそこまで投資ができるほど羽振りの良い業界ではありませんし、
なかなか難しいようです。
 
 
昨今は 「ライフログ」 という言葉が流行っているように、人間の生活の
さまざまな行動をデータ化して管理・集計することで新しいメリットを
生み出そうとするサービスが増えています。しかしそこで必ず立ちはだかるのは、
 
 データ入力の手間が、メリットと比べて割りに合わない
 
という大きな壁です。
 
たとえば 健康管理 などは進んでいる分野で、先日もちょっとご紹介しましたが、
体重計で測ったデータをPCに転送して管理するサービスは特にさまざまなメーカが
挑戦しています。しかし完全ネット連動にするには器具自体が高くなりすぎてしまいますし、
USBメモリで自分でPCに挿し替え・転送するというのでは、まだ面倒が残ります。
 
その意味では、「Wii Fit」 というのは「必要な器具をゲームに
見せかけて買わせた」という点で、巧くやっている例の1つになるでしょう。
 
あまり意識されている方はいらっしゃらないかもしれませんが、
「コミックダッシュ!」 はそうしたライフログの1ジャンルでもあります。
購入したコミックを克明に記録していくことで、その集計結果である
新刊カレンダー が得られるというのがコミックダッシュ!の原理であり、
これも上述の体重管理やゴルフのスコア分析と構造的には何も変わりません。
 
■ckom のコミック・プロフィール | コミックダッシュ!
http://ckworks.jp/comicdash/profile/ckom

 
コミックダッシュ!では必死に登録の手間を抑えようとしています。
従来の蔵書管理サービスでは基本的に本の所有登録では 「1冊ずつ」
登録作業をひたすら繰り返していくやり方をベースにしていました。
コミックダッシュ!ではコミックの所有管理が1人1人の意識の中で
「1冊」単位ではなく 「シリーズ」単位 で認識されていることに
目を付けてこの入力の手間を大幅に軽減しています。しかし、これでも
まだ作業に若干の「手間」が残っていることには変わりありません。
 
たとえば バーコードリーダ で入力できるようになったらイイじゃないか、
という考え方もあります。実際にバーコードで入力管理されている方も
いらっしゃるようです。しかし、よくよく考えてみると、バーコードでの入力は
シリーズ単位になっていた入力を再び「1冊ずつ」の世界に引き戻してしまいます。
目の前に1,000冊のコミックが 並んでいて、その1冊1冊すべてに
重複なくバーコードリーダを当てていくことを想像してみてください。
 
本当にこの分野で自動記録が為されるためには、先のボウリングの例と同じく、
全国の書店が連携してコミック購入時にIDとの紐付け・ネット転送をしてくれて、
「購入=データ蓄積」 という連動が起こるようになるのが理想です。
そして、先ほども触れたとおり
 
 それが理想であることは誰でも簡単に想像が付く
 
にもかかわらず、実際に 実現することはとても難しい という
現実が待っているワケです。具体的にはそれに関わる全てのプレイヤーが
ある程度喜ぶような提案を作り上げなければいけません。
全国の書店さんは 「手間が増えるだけ」 の提案には誰も乗らないでしょう。
 
 
ゲームのスコア記録からライフログ全体のお話まで進みましたが、
どんな素人でもデジタル化されたデータを集計することで多くの楽しみを
見出せるという世界はすでに夢物語ではなくなってきています。多くの人が
その理想郷を夢見るからこそ、こうしたサービスへのアイデアは尽きないのでしょう。
 
しかし、その前に立ちはだかるのは、「記録の手間(コスト)」 という
大きな大きな壁です。このコストをユーザに転嫁すれば誰も寄り付かなくなり、
店側に転嫁すれば導入自体が進まないでしょう。
多くの人々がここに センサー機器系 のアイデアを持ち込んで、やはり
導入にこぎつけられないことからも、「コストがちょっとでも掛かるなら要らない」
というユーザや店側の意識を越えるのが如何に難しいかがわかります。
 
ライフログはまず、低コストで大量のログを記録するという「ラストワンマイル」
ならぬ 「ラストワンタッチ」 (?)の部分に難題があるのです。
「ひとたびデジタルデータになりさえすれば」 と人はよく言います。
しかし、利用者にとって「記録」に掛かるコストは、往々にして
そこから得られるメリットを上回るほど面倒で手間の掛かる作業なのです。


2009/07/18 [updated : 2009/07/18 23:59]


この記事を書いたのは・・・。
CK@デジモノに埋もれる日々 @ckom
ブログ「デジモノに埋もれる日々」「アニメレーダー」「コミックダッシュ!」管理人。デジモノ、アニメ、ゲーム等の雑多な情報をツイートします。




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hidematu 2009/07/21
分野は全く違うがデータのバックアップも同じような側面があると思う。そう言う意味でTimeMachineは画期的だったと思う。
kkbt2 2009/07/22
このへん、感覚が共有されたりすると、家計簿をつけるのがラクになります!みたいな方面から、電子マネーとかを普及させていくということもできる、かな。
tinsep19 2009/07/22
今まではゲーム、あるいはスポーツにおいて、 自身のプレイデータを克明に記録するというのは「プロフェッショナルにしか許されない贅沢」でした。>そうか、贅沢感をあおればいいんだ。
t___s 2009/07/23
「しかし、利用者にとって「記録」に掛かるコストは、往々にして そこから得られるメリットを上回るほど面倒で手間の掛かる作業なのです。」
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