地デジ・コピーワンスとHDDレコーダの失速 - 質と利便性のトレードオフ

2007/04/22

日曜コラムです、こんばんは。
 
先日、池田信夫さんのブログで、デジタル家電の進化を妨げて
いるのはデジタル放送だという論旨の記事がありました。
 
■デジタル家電の足を引っ張るデジタル放送
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/343b858371cbb42496dbbe8ea18e3c7d
昨年のDVDレコーダーの国内出荷台数は、前年比18%減となった。世帯普及率はまだ40%台なので、これは市場が飽和したためとは考えられない。その最大の理由は、関係者が一致して指摘するように、コピーワンスのおかげで操作が複雑になり、普通の視聴者には扱えない機器という印象が広がったためだ。たとえば、あずまきよひこ.comで紹介されているように、番組をPCで見るためには、DVD再生ソフトやDVDドライブなどをすべて買い換えなければならない。
 
この記事にはとても納得します。思えば2006年のHDDレコーダの失速ぶりは
目を見張る(?)ものがありました。ダビングできない、PCで見られない、
カット編集できない、iPodにもPSPにも転送できない・・・。
 
 「録画して、あとで見て、消す/DVDに移して保存するだけ」
 
という枠からちょっと飛び出たことをしようとすると、
全ての作業がコピーワンスのキツイ制約を受けることになり、
デジタル放送を魅力の無いものにしていきました。
 
そしてHDDレコーダは、デジタル世代の機種に総入れ替えされると同時に、
その求心力を失ったのでした。「コピーワンスのおかげで操作が複雑に・・・」
という池田さんのブログの一節は興味深い部分です。私はこれをこう解釈しています。
 
iPodやHDDレコーダのような最新機器の布教というのは従来、アーリー・アダプタ
と呼ばれる マニアの役目 でした。判らないことがあったらよく知っている
身近な人に訊くという流れがあり、また、それが訊けるから一般人でも安心して
購入できるという具合です。当然ながらアーリー・アダプタたるマニアの人に
とっては操作が複雑で云々というのはそれほどの障壁ではありません。
 
ところがアーリー・アダプタに嫌われたデジタルレコーダはどうでしょう。
宣伝(布教)役がいなくなったことも勿論ですが、それよりももっと厳しいのは
 
 新しい概念を「一般人に説明する役」がいなくなったこと
 
にあります。ある人がデジタルレコーダのことが気になっていたとしても、
身近なマニアに聞いてみると、「うーん、今はちょっと止めといたほうが」
などと言って積極的に後押しも説明もしてくれません。
 
こうなるとこの人は、身近な人の噛み砕いた説明を経ずに、一足飛びに
メーカの説明を理解しなければならない状態になります。メーカもこういう
末端のユーザに対して新概念(地デジのチューナとかコピワンの制約とか)
を直接説明し切る義務が生まれてきます。これは相当苦しい状態です。
よほど判りやすい簡単な概念でない限り、途中で 「もういいよ面倒くさい」
といわれてしまうでしょう。
 
次世代の デジタル家電の花形という称号 を得られる「ハズ」だった
HDDレコーダは、「キレイなデジタル録画」のアピールもむなしく、
こうして主役の座を追われてきたのでした。そして代わりに
リビングにはWiiやPS3といったゲーム機が入り込んできています。
 
 
さて、もう1つ、池田さんのブログの中で 「高画質は必要か?」
という話題がありました。
 
■デジタル家電の足を引っ張るデジタル放送
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/343b858371cbb42496dbbe8ea18e3c7d
20年ほど前、NHKのハイビジョン・プロジェクトで視聴者のブラインド・テストをやったとき、われわれが衝撃を受けたのは、ほとんどの視聴者が画質を見分けられないということだった。ハイビジョンの番組と、普通の番組を単に横長にしたものを30インチ以下のモニターで見せると、90%以上の人が区別できない。いろいろな条件を変えて「どっちの映像がきれいか」と質問すると、もっともはっきり差が出るのは、色温度とコントラストで、解像度は最下位だった。
 
このハイビジョンの見分けテストは、「20年前」という条件はともかくとして、
「30インチ以下」 という条件下に於いては「区別できない」というのも
たしかに無理はありません。解像度の差が如実に現れるのは当然大画面の
時であって、小さな画面でいくら解像度を上げても、よほどのマニアで
無い限り見分けが付かないのは仕方のないところでしょう。
 
たとえば、iPodなどの携帯機器で動画を見ると、そのあたりは顕著にわかります。
iPodの2インチの液晶では、320x240の動画がとてもキレイに 表示されます。
 
では同じデータをPCに持っていって1024x768の画面いっぱいに映して見られるか
というと、それはとてもとても おぞましい状態 になるのはご存知の通りです。
 
現在は大画面テレビを持つ人も増えてきました。37インチくらいになると、
アナログ放送の解像度では粗ばかりが目立ってくるようになります。これが
実は私が大画面テレビの購入をためらっている最大の理由にもなっています。
つまり、大画面テレビを買うことによって、
 
 アナログ放送の画質が低下するのです。
 
もちろん実際には低下はしません。データは今までどおりなのですから。
しかし人間の目には、同じ解像度のデータは大画面で見れば見るほど、
劣化したように見えてしまいます。せっかく贅沢をして大画面テレビを
購入したのに、画質が劣化してしまうというのは何たる悲劇でしょう。
 
 
ここで再び池田さんのブログ記事に戻りましょう。
 
■デジタル家電の足を引っ張るデジタル放送
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/343b858371cbb42496dbbe8ea18e3c7d
アンケート調査で、視聴者がもっとも望んだのは「見たい番組をいつでも見られるようにしてほしい」ということで、「たくさんのチャンネルを見られるようにしてほしい」という答も多かった。「いい画質で見たい」という答は最下位だった。だから今までと同じ番組の解像度を単に上げるだけの地上デジタル放送には、もともと需要がないのだ。
 
画質へのコダワリよりも、見たい番組をすぐ見たい、番組のバラエティを
増やして欲しいという声があげられています。これは高画質が要らないと
言っているワケではなく、それよりも優先して欲しいものがもっと沢山ある、
という意味合いに捉えたほうが良いでしょう。
 
HD映像を勧める方の言い分はいつもこうでした。
 
 汚いより綺麗なほうがイイに決まってるだろ。
 『汚いほうで十分』なんて、どんだけ負け惜しみだよ!
 
確かに汚いよりは綺麗なほうが良いに決まっています。
しかし、もっとも重要な点は、綺麗と利便性は反比例にあるという点です。
それを私たちは iPodで、MP3で学んだハズ でした。
 
オーディオマニアの人々にとって、2000年頃から始まった MP3革命は
まさに悪夢でした。音質にこだわり、アナログレコードからCDに移行したときも
「情報が欠落した!」と嘆いていた彼らが、さらにハッキリとした形で
自ら音質を下げていくMP3の蔓延に心を痛めなかったはずがありません。
 
しかしMP3は、音質を「ある程度」保ったまま、データ量を10分の1にすることに
成功しました。10分の1になった音楽データは、数千曲を自由に持ち運べる
iPodを生み出し、PCで全ての曲を管理するiTunesを生み出しました。
 
MP3とiPodの出現は、人々が、
 
 利便性のためなら、質の劣化を平気で受け入れることもある
 
という前例を見せ付けてくれたのでした。これは「質は常に向上するものである」
「少なくとも自ら劣化する方向に向かうなんてありえない」という
クオリティ原理主義 の方からすると信じがたい結果でしょう。
 
では映像の世界はどうでしょうか。この例は何に当てはまるでしょう?
 
そう、いわずもがな、この例は YouTube に当てはまります。
YouTubeの画質が非常に悪いことはみなさまご存知のとおりです。
 
 「あんな画質で満足できるワケない。
  満足できるとしたらどんだけ目が悪いんだよ!」
 
というのは確かにその通りです。これは池田さんのブログでいうところの、
「区別が付かない」という状態になっているのではなく、画質が悪いという
ことは利用しているほうも十分に認識した上でYouTubeを見ている状態です。
YouTubeを見ている人も、自ら音質劣化を受け入れたiPodのユーザと同じです。
 
 質を落とせば、そのぶん利便性を上げる余地が生まれる
 
ということを、私たちは身をもって体験し、その質と利便性は常に「バランス」
を必要としてきたのです。利便性を十分に上げる余地を持っていながら、
その余地を必要以上の質向上に全て充てられてしまう ことは
消費者にとって大きな損失です。だからこそ消費者はSACDやDVD-Audioに
「NO」を叩きつけ、iPodとMP3を支持したのです。
 
いま、地デジとBlu-ray/HDDVDに「No」を叩きつけ、YouTubeを
支持する層が拡大しているのは、そのデジャヴにもにた感覚に思えないでしょうか。
YouTubeがiPodのような最終勝利者になるかどうかはまだ判りませんが、
少なくとも HDDレコーダを単なる「ブーム」で終わらせて しまいかねない
地デジとコピーワンスは、この「質と利便性のトレードオフ」について
もっと深く認識した上で導入を検討すべきだったのかもしれません。
 
そしてわたしは今日も、地デジ関係の製品を避け続けて いるのです。


2007/04/22 [updated : 2007/04/22 23:59]


この記事を書いたのは・・・。
CK@デジモノに埋もれる日々 @ckom
ブログ「デジモノに埋もれる日々」「アニメレーダー」「コミックダッシュ!」管理人。デジモノ、アニメ、ゲーム等の雑多な情報をツイートします。




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MYoshimura 2007/04/23
ネットワークウォークマンが負け、iPodが買った。このときに家電業界は死を迎えていたのかもしれないね。もっとも自分達が死んだことにまだ気付いていないみたいだけど
naney 2007/04/23
ニーズ
Baatarism 2007/04/23
全チャンネル、全時間帯自動録画のタイムシフト用レコーダーが出れば、また話は違ってくると思うけど。
s_gotter 2007/04/23
「オーディオマニアの人々にとって、2000年頃から始まった MP3革命はまさに悪夢でした。」「利便性のためなら、質の劣化を平気で受け入れることもある」
uemu 2007/04/23
そのとおり 僕も大型テレビや地デジより Youtubeの方に未来を感じる
udy 2007/04/23
MP3とiPodの出現は、人々が、利便性のためなら、質の劣化を平気で受け入れることもあるという前例を見せ付けてくれたのでした←重要
takopons 2007/04/23
ムーブに失敗した場合でもHDD上の録画データは自動削除され、ゴミ・ディスクだけが残るという最悪の仕様。 それがコピーワンス。
shidho 2007/04/23
家電業界はともかく、放送業界はレコーダが死んで万々歳じゃないんだろうか?
cloverleaf24 2007/04/23
つまりテレビの解像度を上げることでデジタルをアピールしてるってことか。消費者は普通利便性を取るって。それが分かってないのよね・・・
castingvote 2007/04/24
「利便性のためなら、質の劣化を平気で受け入れることもある」「利便性を十分に上げる余地を持っていながら、その余地を必要以上の質向上に全て充てられてしまうことは消費者にとって大きな損失です」
anhelo 2007/04/24
利便性のためなら、質の劣化を平気で受け入れることもある。アナログレコードからCD、MP3へと音質を下げたり、YouTubeの画質低下を例に説明
ch1248 2007/04/25
TVは一度滅んだ方がいいかもね。
nezuku 2007/04/30
利便性より高解像度の方を高い魅力にさせるのって困難だよなー
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No.9247   投稿者 : 寿庵   2007年4月23日 12:51

共感できます。
私の場合は、RD-X1とRD-X5を所有しているのですが、デジタル放送対応機は様子見しています。友人にも相談される事が多いのですが、『アナログ放送のを買っておけばいいんじゃないかな』といっています。

そろそろBSデジタルにも録画したい番組が出てきたので、どうしようかと考えていますが、今一つ購入意欲が湧きません。正直欲しいのは、大容量とPCとの連携です。高画質は、必要性を感じないですね。


No.9248   投稿者 : まこっちゃん@SHODO(衝動)   2007年4月23日 13:42

寿庵さんもおっしゃっているのに
共感できますね。

『アナログ放送のを買っておけばいいんじゃないかな』

ってのはまさにその通りで。
コピワンガチガチのデジデジ録画しかできない機種なんて
毛頭買う気がありません。
DVD安くなったし、どうせBOX出るからそれかえばいいし。

いまRD-X5/RD-X6が元気にアナログW録してますが
パンピーはこれで十分なんではないでしょうかね。

というわけでまだアナアナW録で十分のわたしw
ライブで見るときだけはデジタル放送のきれいな画面。
割り切ってます。

このままいけば2011年停波で暴動です(笑)


No.9249   投稿者 : 船橋(アメリカ在住)   2007年4月23日 14:20

アメリカに住んでると、テレビ放送の画質の悪さにうんざりします。

たまに、日本の友達が日本のアナログ放送をVHSテープに3倍速で録画して送ってくれるんですが、それでも(VHSの3倍速でも)アメリカの放送に比らべるとまばゆいほど画像が美しくて、ためいきがでます。子供はそこに本物があるのかとブラウン管に触ろうとするほど。

日本のテレビ番組は、いまのままでも十分に(たぶん、世界一)きれいじゃないですか。
これ以上のきれいな放送(デジタル放送)というのが、私にはちっとも想像できません。


No.9261   投稿者 : dhildhil   2007年4月23日 22:32

アナログ停波は結局延期になると思ってるんだけど、どーだろね。
強引にTVを買い替えさせる気満々のメーカー、
くだらない第二東京タワー、
コンテンツのコピー制限・・・

その時だけ見れればいいなら
今後オンデマンドのネットコンテンツは増える一方だろうし
インターフェースなども改善されていくだろう。
わざわざ面倒な地上波を選ぶ理由は無い。

「やるならもっと気持ちよく騙してくれ」って感じ
この状況の延長でアナログが停波したら
多分地上波はそのまま見なくなる。


No.9262   投稿者 : chate   2007年4月24日 00:24

私も地デジ懐疑派ス。が、ケーブルテレビに加入したら、
コピーワンス信号が我が家にも流入してきたので、
うざいので、キャンセラーを(わざわざ)買ってしまいました。。。

ハイビジョン放送は、画面のサイズがころころ
変わるのがもう見てて鬱陶しいですねぇ。。。


No.9316   投稿者 : centime   2007年4月24日 22:36

>利便性を十分に上げる余地を持っていながら、
その余地を必要以上の質向上に全て充てられてしまう

これってVISTAにも言えますよね。ただこちらはほぼ独占状態で選択のしようが無いってところが問題。


No.9369   投稿者 : ofj   2007年4月26日 12:03

地上デジタル放送とYouTubeを一緒くたに比較するのもどうかと思いますけどね。
まったく似て非なるサービスでしょう。

個人的には、地上デジタル放送の画質を見慣れるとアナログには戻れませんね。
とはいえ、デジタル放送の保存の縛りにはうんざりしてるのも確かで
自分はPV3で回避しています。


No.17231   投稿者 : Pana   2007年12月23日 21:52

そもそもB-CASはBS見るためのものであって、地デジとは全く関係ないのです。
地デジのコピーワンスやB-CASが必要とされるのはNHKの圧力によるもの。
ARIBを含む地デジ関係者の多くは今の状態を変えたいのですが、
NHKの巧みな裏工作に屈しているのが実情です。
諸悪の根源はNHKなのです。


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