Wiiを誰に売りたいか - 郊外おもちゃ屋の商圏と思惑を感じたひと幕
2007/01/14日曜コラムです、こんばんは。
昨日の記事では、都市部の家電量販店と 郊外のおもちゃ屋さん での
Wii販売の扱いの違いについてちょっと触れました。
■2台目のWii購入 - 郊外おもちゃ屋を散策したときに見た光景
http://c-kom.homeip.net/review/blog/archives/2007/01/2wii.html
2台目のWii購入 - 郊外おもちゃ屋を散策したときに見た光景
特に朝並んだりするでもなく、普通に昼過ぎに行ってみると
店内には 「Wii本体あります」 の張り紙がしてありました。
これは「ハローマック」の例です。
ここで注目して頂きたい点が1つあります。
張り紙が「店内」にあった
という部分です。実はわざわざ注意深く観察してきたのですが、
店外にはWiiの在庫をほのめかすような張り紙は一切ありませんでした。
同じく昨日の記事から。今度は「トイザらス」です。
こちらも行ってみると丁度良いタイミングで、
「話題のWii、入荷いたしました。
ゲーム売り場の購入カードをレジまでお持ちください。」
という 素っ気ない店内放送 がありました。
「素っ気ない」という部分を強調したのにもワケがあります。
店内に響いたアナウンスは本当に淡々としていました。
「超人気のNintendo Wii、まだありまーす!
先着○○名様限定ですので欲しい方はお早めに!」
などと煽る光景に慣れてきた身からすると、随分と違和感のある光景です。
もちろんチラシや張り紙などで「Wii限定○○名様 ○○時~整理券配布」
のような煽りをするでもありません。これが本当に、秋葉原や新宿で
在庫があるたびに大行列を成しているあのWiiなのか? という気分です。
これを見て私は、あぁ、郊外のおもちゃ屋というのは都心部の家電量販店とは
全く違ったモデル を大切にしているんだなぁ、と新鮮に感じたのを覚えています。
ここからはあくまで想像ですのでそのつもりでお読みください。
思うに、郊外のおもちゃ屋さんは、WiiやPS3のような新ゲーム機に真っ先に
飛びつくような18~30歳くらいの層を 意図的に避けている ように思います。
それは、郊外のおもちゃ屋さんにとっておそらく一番大切なのが、
目先の売り上げではなく、リピータの確保 にあるからです。
秋葉原ヨドバシで大行列を作った人たち、また、そこであぶれた人たちは、
郊外店に在庫があると判れば、きっと電車に乗ってどこまでもやってくるでしょう。
しかし、彼らは決してその郊外おもちゃ屋のリピータには成り得ません。
彼らは必要があれば新宿にも秋葉原にも足を運びます。同じ労力であれば
新宿や秋葉原に行くことになるでしょう。Wiiの場合は郊外店にしか無かったから
仕方なく足を運んだものの、今後 ソフトや周辺機器 を買い揃えていく過程では、
新宿や秋葉原、あるいはAmazonなどのオンラインショップを選ぶかもしれません。
では、8~18歳くらいの子供 の場合はどうでしょう?
あるいは 30~40歳くらいの主婦 が3~10歳くらいの子供を連れている場合は?
主に土日に行動する彼らは、「職場」や「通学」という 「遠距離の生活圏」
を振りかざさず、地域という 「近距離の生活圏」 を中心に動き回ります。
子供にとって、ゲームを買いに行くのに秋葉原に行くということは在り得ません。
また、主婦にとっては、ゲームというのは
子供が欲しがるから仕方なく買いに行く
ものであって、「秋葉原のほうが品揃えが良いから」などという選択基準とは
全く無縁です。従って何かあれば「近いところ」に足を運ぶことになります。
郊外のおもちゃ屋さんにとっては、100台のWiiを仕入れたら、それは
誰に売っても同じ100台です。では今後の商売を考える上で、誰に売るのが
一番よい選択でしょうか。答えは考えるまでもありません。
「次のお買い物も当店に来て頂ける方にぜひ!」
と、そう考えるハズです。
ゲーム機はそれを販売したら終わりではありません。ゲーム機1台につき、
5年くらいのサイクルとしてソフトが何本売れるのか、そのうち何%が「当店」で
売れるのか、そこまで見越しての「ゲーム販売」です。もちろん100%を自店舗で
売り切るということは無理でしょうが、それが50%と0%では随分違ってきます。
しかしそうは言っても、秋葉原などで手に入れられなかった人がわざわざ足しげく
郊外までやってきたのを、「当店の常連さんでない方はご遠慮ください」
などといって無下に差別して断るワケにもいきません。また、ソフトと
同時ご購入の方のみ、などと抱合せ販売もどきをやるワケにもいきません。
そこで取った手段が、そう、冒頭で記述したようなやり方です。
「ハローマック」は表立ったところに目玉商品(Wii)の販売情報を張り出さず、
普段どおり来店してきた人だけが目に付くように店内に張り紙をしていました。
「トイザらス」も同様で、店の外には平静を装っておいて (?)、
店内では普通にお買い物をしているお客様に普通のアナウンスを出しました。
転売屋のような人たちに集まって欲しくないのは当然のことですが、
それ以外にも、行動範囲が広い18~30歳くらいの学生、独身社会人のような人にも
できれば目に付いて欲しくない、そんな雰囲気が郊外おもちゃ屋にはあります。
それが在庫を気にしない普通の商品だったら、もちろんそんなことは考える必要は
ありません。1個でも多く売れたほうが商売としては嬉しいのは間違いないでしょう。
しかしWiiやDSLiteのように、在庫が限られている商品の場合は事情が別です。
二度と当店に来ない人に売れるのと、リピータに売れるのでは
大きな違いがあるのです。
では都心部の家電量販店ではどうなのか、と言いますと、郊外のおもちゃ屋のような
選択の余地はあまりありません。というのも、元々行動範囲の広い18~30歳くらいの
独身層がしいて言えば彼らのリピータ層に位置づけられるからです。さすがに転売屋に
売れてしまうといろいろと問題なのですが、それ以外は特にお客を選ぶ必要はありません。
こうして考えてみると、Wiiの在庫が都心部の家電量販店で「瞬殺」状態にあり、
一方で郊外のおもちゃ屋では普通に買えるというのも、Wiiの販売戦略としては
至極まっとうなものなのかもしれません。すなわち、
Wiiを楽しいと思ってくれる「ファミリー層」にしっかり行き渡るように
在庫流通経路を選択しているのだとしたら、これはなかなか興味深い現象です。
Wiiは結果的に慢性的な在庫不足を招いていますが、これがもし
「出せばいつでも売れる都心部の 家電量販店に優先して 在庫を回す」
ようなことすれば商品の販売ペースは今よりはるかに早かったでしょう。
しかし同時に、Wiiにすぐ飽きるヘビーゲーマ層からの酷評 が溢れるようになって、
ファミリー層の好評価をかき消すような状態になったかもしれません。
そしてこれはWiiにもDSLiteにも共通して言えることですが、
3~10歳の子供と30~40歳の主婦というタッグに対して有効に働いたのが、
親のほうに「私にもできるソフトがある」と思わせた
ことです。それは「脳トレ」でも「任天犬」でも「お料理」でも何でもよかった
のですが、それがちゃんと揃っていただけで、この「親」のほうに、
「子供は夢中になってるけど、アタシは何にも判らないわ・・・」
という疎外感を与えず、親子タッグをまるまるゲーム仲間に引き込んでいける
可能性を作り出しました。この点でも、家電量販店と郊外おもちゃ屋は軸が違います。
家電量販店に赴く18~30歳の層は、主にこの親世代がついていけないような
やりこみ要素の多いゲームを好む傾向があるからです。
昨日の記事では、4~5歳くらいの子供が 「MotorStorm」 の難しいコースで
クラッシュしまくる、という光景のお話をしました。
ところがその男の子、コースを外れて土手に正面衝突したり、絶壁から落ちたり、
1ラップごとに、クルマの停止が10~20回(うち大破5回)くらい
やっていて、とにかくまともに走れずレースになっていません。
もともと子供は順応性が高いもので、何度クラッシュしようが、当人にとっては
チャレンジしがいのある対象であり、この子はむしろこれからPS3を買って
毎日でも練習したいと思ったかもしれません。でも私は別のコトを考えていました。
この光景、「親」から見たらどうなのかな・・・。
親が子供の教育上のことを考えて・・・云々というお話ではありません。
このゲームを見て、親のほうが自分自身を「このゲームの当事者(プレイヤー)」として
想像できたかどうか、すなわち自分もトライしたいと思ったかどうか、です。
これは非常に重要なポイントになります。
ゲームを購入するとき、「親」は敵なのか、味方なのか。
それはWiiの開発陣がそのコンセプトを語るときに何度も何度も強調する
部分でもあります。そして、「親」が味方になる可能性が、
少なくとも従来のゲーム機よりははるかに高いDSLiteやWiiは、
やはり郊外のおもちゃ屋で売られるべき商品なのでしょう。
さて、Wiiのお話はここまで。最後はXbox360のお話です。
秋葉原のゲーム売り場をいろいろ歩き回ってみて気が付いたのですが、
想像以上にXbox360の売り場が拡大しています。
それは上でお話したような都心部の家電量販店の主要顧客、すなわち18~30歳の
独身層に対して、Xbox360が強くアピール度を高めているという言い方もできます。
「ブルドラ」「ロスプラ」などの正統派大作に加え、「DOAX」「ランブル」「アイマス」
のようなギャル萌えも含め、マニアの心をゲリラ戦で捉えていく姿は、
ポジションとしてはまるで10年前のセガサターンにも通ずるものがあります。
PS3、Wii、Xbox360の次世代ゲーム機戦争は、たとえ建前として「互いの狙う領域が異なる」
とは言いながらも、結局は少なくない戦場で「同じ財布」を狙って争うことになります。
先に「ファミリー層」というカタい財布を押さえたのはWiiでした。次にマニア層を
掌握するのは果たして誰でしょうか。当初はPS3が「当選確実」だったこの市場も、
死地から甦って来たXbox360 に足元をすくわれる可能性を見なければなりません。
ひと言にゲーム市場といっても、その商圏が違えば売り方が全く違います。そして
実際に店舗に足を運んでみると、そうした空気をピリピリと感じることができます。
郊外おもちゃ屋で試遊台で遊ぶ子供たちの表情を見ながら、私はそんなことを考えていました。
2007/01/14 [updated : 2007/01/14 23:59]
ブログ「デジモノに埋もれる日々」「アニメレーダー」「コミックダッシュ!」管理人。デジモノ、アニメ、ゲーム等の雑多な情報をツイートします。
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▼ コメント ▼
No.6356 投稿者 : sisya 2007年1月15日 11:54
言われてみれば、ゲームハードは基本赤字販売な(入荷価格が販売価格より高い)ので、お店側としてはその後もソフトを買ってくださるお客さんを獲得する形を取りたいに決まっているんですよね。売る=儲かるじゃ無いんですよね…
No.6357 投稿者 : なすび 2007年1月15日 13:49
「売る=儲かる」で良いと思いますけど、利益で見てるんでしょうね。記事にあるようにゲーム機は単体では意味がなく、ソフトをそろえてなんぼですし、Wiiはリモコンやクラコンなどの周辺機器の需要もあります(DSもアクセサリー系が充実してますね)。
地元のユーザーが本体を買ってくれなければ、周辺機器やソフトが売れるはずもないですから。
今回の記事もいい着眼点ですね。
ちなみに小生の場合は、ソフト、ハード、周辺機器すべて地元のトイザらスにお金を落してます。わざわざ秋葉に足を運ぶようなことはないです。
No.6358 投稿者 : Listlessness 2007年1月15日 14:54
郊外店は自身の商圏のファミリー層にアピールするために新聞折込チラシを使っていると思います。折り込みチラシなら情報を伝える地域の絞込みが簡単です。
独身で一人暮らしなんかだと新聞取ってないことも多いですしね。お母さんと子どもにアピールするには最適ではないかと。
私は金曜日の新聞に入っていたトイザラスのチラシを見て買いにいきました。
並んでいたのはやはりファミリー層が多かったように思います。
バスも動いていない時間帯なので車を持ってないと早朝から並ぶのは難しいですから、そういう点でも絞込みが効いているのかな、と思いました。
No.6359 投稿者 : 不破雷蔵 2007年1月15日 16:51
非常に面白い、興味深い、そして納得のいく分析、ありがとうございました。
……ただ、ゲーム専門誌のほとんどって、「家電量販店に赴く18~30歳の層」をターゲットにしてるんですよね。そこら辺に、「業界」なるもののゆがみの一片を見出すことがうわなにをするまてこら(ry
No.6360 投稿者 : 不破雷蔵 2007年1月15日 16:51
非常に面白い、興味深い、そして納得のいく分析、ありがとうございました。
……ただ、ゲーム専門誌のほとんどって、「家電量販店に赴く18~30歳の層」をターゲットにしてるんですよね。そこら辺に、「業界」なるもののゆがみの一片を見出すことがうわなにをするまてこら(ry
No.6363 投稿者 : コンロン 2007年1月15日 21:22
「死地から甦って来たXbox360」ですか・・・
Xbox360がどんなポジションに居るのか所有して遊んでる人間には意外とわかんないんですよね。毎日見てるからメジャーに感じる(笑)。
No.6364 投稿者 : 匿名 2007年1月15日 21:31
なるほどなあと思ったのですが。
実は深読みしすぎで、単に郊外のおもちゃ屋さんでは店外に張り紙する習慣が無いだけだったりして。
私は田舎に住んでいるのですが、おもちゃ屋で店外に張り紙してる店ってのが無いんです。
新聞折り込み広告を出してるので、それで十分と思っているのかも。店内も折り込み広告をそのまま貼ってあります。
No.6368 投稿者 : miruto 2007年1月16日 02:13
なるほどなぁと思いましたが、私もNo.6364さんと似たような考えかも知れません。
その方が利益があるから、って店も確かにあるかも知れません。
ですが、FFのような、それこそ18~30に売ってナンボのソフトでも、外に張り紙してる店はごく僅かです。
敢えて外見を地味にしておいて……とは、少しばかり深読みしすぎかなぁ、とも思いました。
それにしても、PS3には頑張ってもらいたいですねぇ。
360がセガサターンって例えは「うまい」と思いましたw
日本人が喜ぶウイイレやブルドラを、もっと早い段階で揃えることが出来ていたら、日本市場でもPS3に負けるようなことは無かっただろうに。
もっとも、PS3の情報が出るまでは360に手を出せなかったユーザーがほとんどだろうと思いますが……
No.6370 投稿者 : G3 2007年1月16日 09:10
私はPS3のダメダメっぷりを確認し、360購入しました。Wiiも購入しました。
360とWiiは互いにまったく競合しないと思っていますのでこれで良いと
思ってます。実際360の満足度が想像以上に高く驚いていますがw
No.6459 投稿者 : ちゃん 2007年1月20日 09:46
360は死地には,もともといなかったのでは?海外で強いから。
コメントしましょう
年末にWiiが普通に買えたのはそのためだったのか。おとといも普通に売っていた。
都心の家電量販店と郊外のおもちゃ屋で異なるWiiの売り方。行動範囲の狭いファミリー層をリピータにしたいおもちゃ屋、行動範囲の広い独身層をターゲットとする家電量販店。
郊外の玩具屋ならではの売り方
最後の360のくだりだけど 日本ではほぼ不発に終わり 商材として扱い続ける実店舗が結果的にアキバ日本橋大須だけになったという方が正しいのかも
スーパーの「お一人様お一つまで」とかもリピート客を重視したものと考えられるということか。全然考えてなかった。
興味深い記事
郊外店なんかだと新聞の折り込みチラシが重要だと思う。
なかなかに目から鱗
おもしろい
品薄商品の在庫を求めて来る客はリピータにならない
人がいっぱい来たらヤダなというようなシンプルな理由な気もするがなかなかするどい洞察
郊外型店舗の販売戦略とは。なるほど。
「親」のほうに、「子供は夢中になってるけど、アタシは何にも判らないわ・・・」という疎外感を与えず、親子タッグをまるまるゲーム仲間に引き込んでいける可能性を作り出しました
ゲームの販売チャネルの記事。面白い。 360といえば、MSの対開発者攻勢は凄い。年始の挨拶メールも「開発者超大事!」感が溢れてたし、XNAとかも大プッシュ。オープンソース業界との開発者奪い合いなんだろうな。
近郊の人を取り込んでローカル色を出したほうがうまくいく。一見さんマニアが押し寄せると、かえってマイナス効果(とまでは記事の中ではかかれてないけど)。
なるほどねえ。
WiiとかDSは子供とその親に売りたい。リピート重要
だっておもちゃですもの(褒め言葉)
将来を見据えて商売をするっていう事
本体の価格はおもちゃ屋で買っても変わらないけどソフトや周辺機器は電気屋や大手が安いからなぁ
ゲーム
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