著作権とフェアユースとアシストユース? - あなたは誰と衝突するのか

2005/11/06

日曜コラムです。こんばんは。
 
前々からちょっとやってみたかった企画があります。
デジモノに埋もれていてパワー(とお金)がすっかり吸い取られてしまい、
とてもネタを多方面に展開する力が捻り出せないのでありますが・・・。
その試してみたかった企画というのは、こんなモノです。
■ 心に残った「漫画の中のあの台詞」 ■
 
あなたの好きな漫画の中で、特に心に残ったあの名ゼリフを教えてください。
誰でも知っている有名な漫画でも、あまり知られていないマイナーな漫画でも、
シビレる決め台詞があれば何でも構いません。フォーマットはこんな感じです。
 
 1、「名ゼリフ」(キャラ)+そのコマの画像
 2、マンガのタイトル(漫画家)+掲載箇所(○巻△頁)
 3、前後の簡単なストーリー
 4、作品への思い入れ、感想
 5、アマゾンリンク

何これ? と思う方も多いかと思いますが、私自身で1つ例を挙げてみましょう。
■心に残った「漫画の中のあの台詞」
 
1、「客に笑われる覚悟もねぇヤローが、
   プロのマウンドに立つんじゃねーってことよ。」

  (トムキャッツ、砂野投手)
 
2、「キャットルーキー」(丹羽啓介) 10巻121頁
 
3、才能はあるが精神力の弱いルーキー投手、酒希は、
 年間安打の大記録が掛かった一流(イチロー)に連打を浴びて
 観客から野次を受け、泣きながらマウンドを放棄する。
 しかし、代わってくれる先輩投手は誰もいなかった・・・。
 
 「覚えとけよ酒希、プロってのは相手との
  真剣勝負を見せて客から金を取ってんだぜ。」
 
4、野球ってこんなに面白かったのか! と思えること請け合い。
 ギャグあり、シリアスあり、でもありきたりのスポ魂とは違う、
 「頭を使って考える野球」を教えてくれる隠れた(?)名作です。
 
5、「キャットルーキー」全26巻
 丹羽啓介 少年サンデーコミックス

ここで皆さんからも思い入れのあるコミックについて沢山の紹介を頂ければ
嬉しいですのですが、ここではそれはさて置きましょう。もし「自分もぜひ
紹介したい作品があるゼ!」という方はトラックバックで教えてくださいまし。
 
ここでこんなテーマを例題に出したのは、上記の
 
 コミックからのコマ切り抜き画像
 
のことです。
冷静に考えると、著作権違反と言われても不思議はない画像となっています。
 
いや、法的には「本文を主とした、従の範囲に収まる引用」として認められ得る程度の
画像なのかもしれません。しかし、いずれにせよ著作権者からクレームが付いたら
法廷にでも行かない限り白黒が付かない微妙な線であることは間違いないでしょう。
 
実際、インターネット黎明期である1995年~1997年頃には、
 
 「ネット上で画像を無断掲載したら、一人残らず訴えてやる!」
 
的な勢いで息巻いていた企業が沢山ありました。
今はそこまで「根絶やし」を求める企業も少ないとは思いますが、
やはり画像の無断掲載というのは、相当のリスクを伴います。
 
では、画像の掲載はどこまで許されるのでしょうか。
 
「法的には・・・」 という話を持ち出そうとしたアナタ、
ちょっと待ってください。法律に違反していない、という拠り所は、
本当にあなたの活動を制限しないことを保証してくれますか?
 
もし「法的には問題ないハズ」とあなたが思っていても、それが結果的に
力のある著作権者の商売をジャマしていたとしたら、その著作権者は
あらゆる手段を用いてあなたの活動を阻止しようと考えるハズです。
 
法律とはあくまで「とりあえず現時点でのあやふやな指針」を文章化した
ものに過ぎません。法の解釈はその時その時の世論によって変わりますし、
場合によっては世論にそぐわない法はあっさり改正されてしまうこともあります。
 
法律はどうでもいい、とまでは言いませんが、法律のことと同じくらい
真剣に考えなければいけないこと、それは、
 
 あなたの行為が誰かの利益と衝突していないかどうか
 
というポイントです。もう半年近く前になりますが、「おれパパ」こと
テラヤマアニさんのエントリが秀逸でしたのでご紹介しましょう。
 
■著作権とパクリと遵法と企業と個人のお話
http://d.hatena.ne.jp/kowagari/20050621/1119342107
著作権者の逆鱗に触れない形とか、間接的に著作権者の利益に
結びつくような形(宣伝に近い形)をとっている限り、
いきなり逮捕とか巨額の損害賠償を請求されることはないだろう
という打算の元、確信犯的に写真の無断転載を行っているわけです。

他にも、1年前の記事で面白いご提案をされています。
これも非常に面白いエントリですので、ぜひご一読ください。
 
■著作権のこと
http://d.hatena.ne.jp/kowagari/20041119/1100881994
俺が仮に大手芸能プロダクションの社長だとしたら、肖像権と
著作権に関してこんな感じの声明をインターネット上に出すと思う。

ここで問題としているのは、
 
 社会の中に於ける敵味方の関係とその距離感を意識する
 
という少し難しいテーマになります。先の画像引用の件でいえば、
 
 A. ムカつくけど、いちいち 小者を相手にして いるヒマはない。
 B. デメリットより メリットのほうが多い から容認しておくか。
 
という2つのケースでは、同じ 「黙認」 でも全く状況が異なるということです。
 
あなたがAとしてイヤイヤ黙認されているのなら、そのことをしっかりと
自覚できるようにする必要があります。何かのきっかけであなたが目をつけられたら、
平謝りで取り下げ なければなりません。Aというのは、そういう立場です。
 
一方、あなたがBとして容認される立場であれば、Aのような立場で怯える
ことは少なくなります。厳密に言えば「法的にグレー」だったとしても、
自分にメリットのある存在を、わざわざ自ら握りつぶす人 は多くありません。
 
つまるところ、相手から好かれているのか、嫌われているのか、
そのポジションをしっかりと認識できるかどうかが、
あなたが訴えられるかどうかの境目になるということです。
 
 ・法的には「極度な違反」ではありませんよ。
 
という最低ラインは押さえておくにせよ、それ以外に、
 
 ・あなたに「デメリット」よりも多い「メリット」をもたらしていますよ。
 
という二段構えの策を用意しておくことが、何よりも重要になります。
世の中、法律で白と黒を線引きできると思ってはいけません。
実のところ社会は、単純に「好き」と「嫌い」の連続であり、
自分のことを嫌っている人は常に自分を攻撃してくる可能性があるのです。
 
上の例では、特定のコミックの面白さを多くの人に伝えようとしました。
少しでも購買に繋がるように誘導もしました。その上で、そこに1コマだけ、
無断掲載の画像を貼りましたが、この1コマだけ引用されたところで、
商品の価値が急に減少するほどのものではありません
さて、このページを訴えるのと訴えないのと、著作権者にとってどちらが得でしょうか?
 
ネット上で情報を扱うとき、考えなければならないのは、そういうバランスです。
こうした「メリットあるから黙認してくれるよね?」というやり方を
「アシストユース」 と呼んでみることにしましょうか。
 
なお、1点だけ注意をしておきたいのは、「自分が相手を好きかどうか」は関係なく、
「相手が自分を好きかどうか」 だけを考慮しなければならないという点です。
熱烈なファンだから! こんなにも好きなんだから! という理由で許されるとは
限りません。熱烈なファンは確かに大切にしなければなりませんが、それ以上の
デメリットが著作権者に発生するならば、著作権者はあえて攻撃をしてくるでしょう。
 
たとえば最新の週間コミック雑誌から丸々1ページをコピーしたりすることは
明らかに「商売のジャマ」になるでしょうし、顔写真そのものが商品である
ジャニーズなどの例では、如何なる写真掲載も商売上は「デメリット」なのかもしれません。
いずれにせよ、相手がどう思うか、という 空気を的確に読めるかどうか がカギとなるのです。
本人は「相手のため」と思ってやったことが、相手にとっては「余計なお世話」だったり
することは往々にしてあります。そこはやはり空気嫁、ということになるでしょうか。
 
法律では云々、というのは勿論軽視できません。ですが本当に大切なことは、
 
 自分の行為が、どのプレイヤーと衝突しうるのか
 
ということをを、社会全体を見回して的確に把握することです。
それが判ってくれば、書面には記されていない色々な線引きが見えてくるでしょう。
著作権も、フェアユースも、そういう流動的な「好きと嫌い」の関係を、ある時点で
固めて書面に落としたものに過ぎません。あなたが確認しなければならないのは、
現時点での社会のプレイヤーと、その好き嫌いの関係 なのです。
 
 
※2005/11/07 追記。
「キャットルーキー」は全27巻ではなく、全26巻でした・・・スミマセン。


2005/11/06 [updated : 2005/11/06 23:59]


この記事を書いたのは・・・。
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siowulf 2005/11/07
自分の行為が、どのプレイヤーと衝突しうるのか
kinow 2005/11/07
社会は、単純に「好き」と「嫌い」の連続
dodolaby 2005/11/07
確認しなければならないのは、現時点での社会のプレイヤーと、その好き嫌いの関係
shidho 2005/11/07
好きだから許されるのではなく、好かれているから許されるということ。
tks_period 2005/11/07
「あなたの行為が誰かの利益と衝突していないかどうか」この視点は非常に大事。分かってない人が多いけど。
tomozo3 2005/11/07
権利者と利用者がWin-Win(死語)の関係になればいいのに。cc万歳
himagine_no9 2005/11/07
ちなみにマンガの引用も判例で認められてる筈。
santaro_y 2005/11/09
考察が面白くて企画は埋もれそうw
J2kawa 2006/07/19
素晴らしい。”アシストユース”なるほど。
memoclip 2007/02/06
自分がどの立ち居地にいると「著作権者から」見られているのかを判断して、その使い方が利害関係の発生するプレイヤーにどんな影響を与えているのか、よく考えて行動すべし。
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▼ コメント ▼

No.1829   投稿者 : Tiger   2005年11月 7日 12:29

アシストユース、おもしろいですね。

著作権の侵害というのは、著作権者が訴えて初めて侵害となる(そうでない場合もあるけれど)ので、訴えられない限りは侵害でもないし、法律違反でもないので「好かれる」というのはとても重要でしょう。

Google Print が訴えられ、Amazon の「なか見!」検索が協力を得られるのも、営利が直接関係している部分も小さくないでしょうが、それ以上に著作権者にどちらが近い位置にいて、不安感が少ないか、好ましく思われているかがあるように見え、ベースは一緒なのかなぁと思いました (^^;


No.1831   投稿者 : せのせの   2005年11月 7日 22:43

でもこの論は自社の著作物(など)をどう扱うか明確なポリシーの
ない会社相手ですよね。
実際には、ひとつ許すと際限がなくなるから(涙を飲んで?)厳しく
言って歩いている企業もありますよね。
こっちは宣伝になりそうだからOK、あっちは悪意を持って取り上げてるからNG
っていう会社より、私としてはポリシーを明確にしている企業の方が好感が持てます。
その辺をあいまいなまま、逆に自社に都合のよいように著作物
を扱って叩かれたのがエイベックス社ではないでしょうか。


No.1833   投稿者 : 30en   2005年11月 8日 22:17

「その行為が相手の利益になるかどうか」で判断していると
あまりにも判断基準が個人差でバラバラになってしまうから
「法的にはどうか」という判断基準がやはり必要になってくるんですよ。

たとえば、週刊雑誌から丸々1ページを掲載することが
出版社側にとって明らかに「商売の邪魔」と書かれていますが、私はそうとも思いません。
20ページ近くある話のうち、1ページだけを見て興味を持った人が、
「このページだけ見れたらもういいや」と思うでしょうか?
むしろ「全部見たくなる」人のほうが多い気がします。
つまり、私は1ページ丸々掲載でもまだ宣伝効果のほうが勝ると考えます。同様に考える出版社があってもおかしくはない。
かと思えば、法律の範囲を超えるいかなる掲載も許さない出版社も確実に存在します。
基準があいまいになるのを避けるなどの考えがあってのことだと思われます。
そういった企業からクレームをつけられるのに、「企業に利益をもたらしているかどうか」は関係ありません。
企業にとっては、「こういった無断掲載をしているとこうなる」という類似サイトへの見せしめと牽制でしかないのです。

著作権者側が「自分たちの利益で動く」のか「法律厳守で動く」のかが
こちらにはわからない限り、
法的にOKな掲載にとどめるか、あるいは、相手にされない(見つけられにくい)くらいの小規模サイトにとどめるか、
このどちらかしか道はない気がします。


No.1917   投稿者 : CK   2005年12月18日 17:00

●Tigerさん
著作権侵害は親告罪なのですよね。相手との関係を見ずに「法律との関係」だけに
目を囚われていると大事なことを見過ごしてしまうような気がします。
GoogleとAmazonの違いは確かに面白いですね。Amazonは書籍流通業者にとっては敵でも、
書籍のコンテンツ制作者のほうは味方につけられるのかもしれませんね。
 
●せのせのさん、30enさん
おっしゃることは非常に良く判ります。私がここで述べたかったことは「個人が訴えられる危険を
排除する安全な方法」ではなく、また、「企業が訴えてはならないケースの指摘」でもありません。
絶対に訴えられたくないと思う、それが普通だ、という方にとってはあまり意味を成すお話ではありません。
 
私がここでお話したかったこととは、人間関係は「ルール」ではないという1点に尽きます。
ルールに反していても罰せられない存在はあり、逆にルールに照らし合わせて罰せない
場合でも無理矢理ルールを捻じ曲げてまで罰してやろうという力さえ存在します。
自身の行為が罰せられる可能性がある、ということは、罰したがっている人がいる、
ということであり、その誰かの利益と敵対した、ということになります。
 
その背景を把握せずして、法律という「現在のルール」そのものだけに目を向けることが、
私は一番危険だと考えています。社会全体を見回して、今、自分の行為に対して「敵のほうが多いのか、
味方のほうが多いのか」ということを判断できる力が必要になる、そんな気がしているのでした。(・ω・)



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デジモノに埋もれる日々 : (C) CKWorks