私的録音・録画補償金制度で「生活に関わる」影響を受ける人々

2005/02/13

いらっしゃいませ日曜コラム。(いつまで続くでしょうか・・・)
今回は、私的録音・録画補償金制度 の適用をiPodなどの携プレにも拡大
しようという動きがあることについて、一歩引いたところから考えてみたいと思います。
 
■JASRAC、CCCD廃止の流れに疑問を提示~船村徹会長ら新役員が会見
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2004/10/18/5029.html
 
概ねの流れは、上記ニュースに簡潔に書かれていますが、今までMDや音楽用CD-Rに
課されていた「私的録音補償金」の徴収対象について、当面の拡大先として、
iPodなどの携プレ に狙いを定めていること、及び、将来的には音楽を
録音利用する可能性のある各種機器(PCそのものや、その中のHDDなど)も
対象にしていくかどうかを検討し始めているとのことです。
 
■デジタル携帯機器も対象へ 著作権補償制度で文化庁
 http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=MNP&PG=STORY&NGID=poli&NWID=2005011701000986
■文化審議会著作権分科会「著作権法に関する今後の検討課題」
 http://www.cric.or.jp/houkoku/h17/h17.html
 
また、こちらのblogでは、実際に分科会小委員会での議論を
傍聴された内容を掲載してくださっています。
 
■文化審議会著作権分科会(第14回) - 概要
http://blog1.fc2.com/nirvana/blog-entry-26.html
 
これを見ると、どうもJASRACとRIAJの方々が鼻息荒く要求を主張する一方、
全体として現時点では「その方向で決まり!」的な流れは、あまり強くは
感じられないという印象だったのですが、実際のところはどうなのでしょう。
 
また、「補償金」の意図は 「許されざる録音」 によって発生した損失を
補填することだと思っていたのですが、RIAJの方の発言が「iPodは沢山保存
できるのに補償金を払っていないのはおかしい」というように読めてしまう
のも理解が難しいところです。あるいは「許されざる録音」かどうかは
関係なく 「沢山保存できること」 自体を問題視しているということなのか、
いずれにせよ、主張される方々の真意をよく吟味してみる必要がありそうです。
 
--
さて、本題です。リスナーとして 感情的に「絶対反対!」 なのは
とても良く理解できますが、そのお話は今回は脇に置いておくことにします。
お話したいのは、こうした制度が成立するかどうかに関する パワーバランス の問題です。
 
私的録音補償金制度に 反対の声 を上げる、最もふさわしい主体は誰でしょう?
リスナーでしょうか? 私はリスナーの声はパワーが足りないと感じ始めています。
リスナーの要望と音楽業界の要望では 「必死度」 が決定的に違うためです。
 
必死というのは、自らの 生活(衣食住) を懸けて戦うかどうかにかかっています。
その意味で、音楽業界が利権を守ろうとする行為は正に「生活を懸けた戦い」です。
 
「利権」。
 
そう表現すると一見、「悪どい存在」であるかのように見えてしまいますが、
実際はそう単純なお話ではありません。音楽業界の利権の規模が守りきれない
という結論になれば、当然それは、音楽製作業界・音楽流通業界に属する
末端のサラリーマンの方々の生活が保障できなくなるということです。
もっと端的に言えば、利権の規模が縮小すれば、それに雇われていた人々が
職を失い、日々の生活に困り瀕死になるということです。
 
「この利権を守る戦いに敗れたら、君らのうち半分くらい解雇ね。
 
雇い主は、収入が減ったら雇用を減らさざるを得ません。それはごく当然のことなの
ですが、このひと言を「ボソッ」とつぶやいただけで、末端のサラリーマンには激震が
走ります。そして翌日から彼らは 「利権を守るための兵隊」 に様変わりするのです。
 
生活を保障してくれる人をサポートしようとするのは、自分の生活を守るために当然
のことであります。一方で、リスナーの言う 「正しい音楽のあり方」 を真に受けても、
自分が職無しになってしまっては何にもなりません。音楽業界に従属する人々が、
リスナーと雇用者、どちらの言うことを聞き入れるのかは、言うまでもないでしょう。
 
必死な状態の人々は「真剣な政治力」を発揮し、強い影響を及ぼします。
利権の是非を問う選挙投票があれば、高確率で「利権賛成」の票を投じに行くでしょう。
彼らにとって自身の職が奪われることを防ぐのは、生活を懸けた最優先事項なのです。
自衛隊問題よりも年金問題よりも 何よりも優先して 「利権賛成」票が投じられるでしょう。
 
一方のリスナーはどうでしょう? たとえ市民レベルの「反対運動」によって
100万人の署名を集めたところで、彼らにとってそれは 「生活を脅かす戦い」 では
ありません。投票時に高精度で「利権反対」側に投票するとは限りませんし、実際に
選挙を前にしたとき、音楽よりも大事な争点があればそちらを考慮するでしょう。
その意味では政治的影響力として、「数」は「力」に還元されないことになります。
 
多くの方々は、先の 音楽CD輸入権 の問題でそうした戦いを目の当たりにしているはずです。
音楽流通業界の「生活が懸かっている」人々は、利権が消える潜在的恐怖におびえ、
集合として利権を守る方向で団結しました。その結果、パブリックコメントに大量の
組織票が 投じられる事態にまで発展しました。彼らは強制を受けているのでは
ありません。自らの職を失わないためには誰に協力すべきか、冷静に判断した結果なのです。
 
生活が懸かっている人と、生活が懸かっていない人では、「必死度」が違います。
政治的影響力から見て、同じ重みではないのです。郵政民有化などの他の例を
見ても判るとおり、「利権の存在」に雇われたごく普通の社会人たちは、
その利権が脅かされると突如として、生活を懸けて全力で牙をむく のです。
 
こうした現実を前に、生活が懸かっていない人々が唱える「あるべき正しい姿」の説法は
意味を成しません。前述のとおり、消費者たるリスナーが唱える「あるべき正しい姿」
に従ったところで、彼らの生活基盤が壊れることに変わりはありませんから、
生活を守るためには、利権を守るほうが理にかなっていることになります。
 
--
では、どうすればよいのでしょう。彼らの生活を懸けた主張は無条件で受け入れる
べきであるということでしょうか。もちろん、そんなことはありません。
 
リスナーの不快度を明確に伝えることも重要ですが、ここではもう1つ、別の見方を
してみましょう。この利権のせいで、逆に「生活を脅かされる人々」 とは誰でしょう?
注目すべきは、その利権が継続あるいは拡大することによって、逆に生活を脅かされる
であろう人が存在することです。真に力のある「反対勢力」を形成する能力があるのは、
そうした生活の懸かった反対勢力になりうる人々の存在なのです。
 
私的録音補償金制度は、本音レベルで言えば「音楽のお陰で儲けているクセに音楽業界
分け前を寄越さない 商売を見つけて、強制的に徴収する制度」です。
今後の追加対象としては、短期的には「携プレ」を狙い撃ちしていますが、
彼ら自身が明言しているように、長期的にはPCやその記憶媒体(HDD)などにも
「音楽を楽しむ目的でも販売しているクセに!」と主張を広げていこうとしている
ことは間違いありません。その流れで行けば、ネットワークサービスにも適用範囲が
広がっていくシナリオも想像に難くありません。「ネットワークが通信の自由とか
主張するお陰で、P2P音楽共有 などがまかり通って損失を被っているのですが」と論理を
展開すれば同様のことが起こります。今はまだそうならないのは、彼らは、生活に困って
いる分だけ、攻めやすいところから 段階的に拡大を主張しているというだけなのです。
 
これは、デジタルオーディオ製造販売、PC製造販売、ディスク製造販売、メディア製造販売、
更には通信機器製造販売、通信サービス企業にまで、いわば幅広い 「音楽税」 を行使する
ことと同じような状況であり、つまりこれらの製造業界の企業で雇用されている人々は、
その 血の汗を流して ようやく得られた売り上げから一定料率の金額を無条件で音楽業界に
「お布施」 することと同じです。当然、これらの製造業界は、今までと同じ努力をしても
利益が減ることになり、ひいては、その業界で働くサラリーマンたちの給与が減ったり、
一部が職を失ったりするなど、生活が脅かされる可能性があります。
そう、「こちらの業界」の人々には、生活を懸けて反対する十分な理由があるのです。
 
今のご時世、どこの業界も、利益を他人に無条件で分け与えてあげる余裕などありません。
PC製造販売も、HDD機器製造販売も、各々の業界の中で必死に競争を繰り返しながら
ギリギリの利益を出して社員の給与を捻出しているに違いありません。それを突然、
 
「明日から売り上げの一部は、音楽業界に自動送金 されますから」
 
と言われて、黙っていられるでしょうか。その分はまるまる販売価格に上乗せして
消費者に転嫁する? そんなことをしたらその分キッカリ売り上げが落ちるだけで
何の解決にもならないのは明らかです。こうして音楽業界が望む 「利益増分」
を捻り出すために、実際に 痛い思いをする のはIT業界ということになります。
 
新制度は音楽業界に属する一般就労者の生活を守るために、IT業界に属する一般就労者
の生活を脅かすというワケです。音楽業界が新たに課金しようと目論むターゲット、
そのリストの中に自分が関わっている製品やサービスが含まれていたら、そこで就労する
IT業界の一般のサラリーマンこそが、生活の危機 を感じ始めなければなりません。
自分が汗水垂らして働いて得た報酬が、自動的に音楽業界の人々の収入に還元され、
自らの「商業成績」が下落したり、給与が下がったりする可能性があるのです。
 
え、ある企業グループはIT産業と音楽産業を両方抱えているから問題ない、と?
企業のトップは満足かもしれませんが、その下で働いているあなたはどうでしょう?
同じグループでも、PC部門のあなたの売り上げの一部は自動的に音楽部門の売り上げに換算
され、その結果PC部門のあなたの業績が悪ければ、クビになるのはあなた なのです。
 
生活を懸けて反対に回る人々、彼らこそが、パワーバランスを考える上での
重要なポイントになると、私は考えています。何故なら前述した通り、
生活が懸かっている人々は「必死度」が格段に違うからです。
 
私はリスナーの主張が無意味であると説きたいわけではありません。むしろリスナーが
誰に不快感を示しているかを明瞭に表現することは、パワーバランスを考える上でも
とても重要な要素になるでしょう。その上で、一方が強大なパワーを以って迫ってきたとき、
それに対抗しうるパワーが、実は想像以上に「身近」なところに存在しうるのではないかと、
私は思います。それはもしかしたら、リスナーの大きな味方になってくれるかもしれません。


2005/02/13 [updated : 2005/02/13 23:59]


この記事を書いたのは・・・。
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ckom 2008/05/30
タイムリーなのでセルクマ。あれからもう3年。ようやく権利者とJEITAの利害がズレ始めた。
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No.638   投稿者 : 三戻   2005年2月14日 20:23

やるならやってほしいです
もともとファイルを複製して利用することを想定して作られたハードで、扱うファイルには著作権がある以上、課金は問題ないと思います。
私の考えでは、”著作権”のためにあれやこれや手段講じられるよりマシだと思います
ただ、CCCD買ってきた消費者に何らかの保障なしに進められるのは不快ですね
ipodに入れられないCD買わされた訳ですから・・

大体、MP3が出てきたとき専門家はこういう手を講ずるべきだと訴えてたのに
聞く耳持たずにアクセスコントロールに走ったのは自分たちのくせに・・


No.639   投稿者 : とおりすがり   2005年2月15日 00:55

先日、「音楽を主に聴く機器はPC」と言う様なアンケートの結果がでていた様に思います。
このアンケートこそ
>長期的にはPCやその記憶媒体(HDD)などにも「音楽を楽しむ目的でも販売しているクセに!」と主張を広げていこうとしている
のために仕組まれた物?
と穿って見て見たり・・


No.646   投稿者 : CK   2005年2月17日 10:31

●三戻さん
うーむ、確かに「やるならやれ」というのも1つの着地点だとは思いますが・・・。
残念ながら消費者側としては 購入量=価値÷価格 の原則は変えられませんので、
「価値」をそのままに「価格」が上昇すれば当然「量」が減ずるわけですが、
その痛みを誰が背負うかについては消費者は関与しない、という言い方はできないこともありません(´~`)
 
私としては、いっそ「外税表示」にしてみたらどうかとも思います・・・。
『 新型 iPod 31,800円 (※この機器を使用するためには別途 413円の私的録音保証金を支払う必要があります) 』
『 新型 VAIO 158,000円 (※この機器を使用するためには別途1,000円の私的録音保証金を支払う必要があります) 』
 
果たして消費者が「そうだよね、みんなで音楽業界を支えてあげなきゃね」と言ってくれるかどうか、
音楽業界は消費者と正面切って「価格で対話」してほしいですねぇ。
 
●とおりすがりさん
あのアンケートは私も不思議に思っていました。ネット調査ですので特にそういう傾向の結果が出ることに
驚きは無かったのですが、あのような形で発表するには何かワケ(狙い)があったのかなぁ・・・と。
PCで音楽を聴くのを推奨する側のアピール狙いだったらよいのですけどね~。


No.647   投稿者 : CK   2005年2月17日 10:40

ざくっと余談ですが。
 
1、音楽業界のこのやり方を見たACCSがヘンなことを叫び出さないことを祈ります。
 『 PCは違法コピーを容易にする機器であり、その所為でソフト産業は本来手にすべき利益を享受できていない。従って・・・ 』
 
2、そういえば AnyMusic はお元気であらせられますでしょうか。


No.1628   投稿者 : おほほ通行人   2005年9月 9日 08:12

ほんとに本当の通行人です。
だから勝手なことを言い放って去っていきますがゴメンナサイ。

覗きこんで、あーやっぱそうなんだ~、と思ってしまいましたが、
たぶん皆さんは肝心なことをお忘れです。
いわゆる著作権料(厳密には著作物使用料)と、
問題になっている“補償金”とは、はっきりいって性質上別物です。
CDであれダウンロードであれ、著作権料はその代金にもともと含まれてますから
正規の料金を払っていれば、その時点で支払い義務は完了。
補償金を払ったら、つまりそれは二重払いです。

管理人さんご指摘の通り補償金は足りない著作権料を補填するためものですが、
JASRACなどの組織人は別にそれで生活しているわけではありません。
ただ、そうした補填処理まで管理実行しますという理由で
登録会員の著作権者を集めて会費収入を得ているわけですから、
そのメリットがなくなると組織の存在理由自体が危うくなる、
という意味では当たっていると思います。

だから逆に、本当は特典として寸志程度であったはずの補償金が
たくさんの機器に課金すればもしかしたらボーナスに化けるかも?
と思った途端、急に欲が出てきたわけですね。
だから躍起なんですよ。

何でも守りに入ったらお終い。
どっちに転んでも今の団体制度自体が長続きはしないでしょう。
もうネットでCtoCの時代ですもんね。著作権料は直接本人に!
な~んてね。あっはっは。
ではさようなら。お邪魔しました。


No.1649   投稿者 : CK   2005年9月14日 01:53

●おほほ通行人さん
補償金は著作権使用料とは別扱いですね(・ω・) かといって二重払いというワケではなく、
 
「おまえら権利泥棒がいるの知ってるだろ? あれ、おまえらの知り合いだろ?
 やつらが泥棒したぶんはおまえが肩代わりしろよ。でなきゃおまえらも共犯者だ!」
 
という、言いがかり金みたいなモノですね(汗。 いずれにせよ、彼らのビジネスが巧くいくかいかないかは、
彼らが好かれるか嫌われるかに大きく関係するワケで・・・。(状況はモチロン悪化しているようですが)



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