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2006/07/30 23:59 - 2006/07/30

その利益は守れるか? - コンテンツ産業が直面する前門の虎、後門の狼

カテゴリ : コラム タグ :

    日曜コラムです、こんばんは。
     
    先々週の YouTube のコラムには非常に大きな反響を頂きました。
     
    ■2006/07/18 [YouTubeと著作権 - ルール改変を迫るための社会的影響力]
     
    これに絡めてもう少しお話をしてみましょう。
    YouTubeというより、著作権とコンテンツ にまつわるお話です。
     
    まずはkanoseさんの記事をご紹介します。
    記事の最後で、上のコラムのURLもご紹介頂いています。
     
    ■通信業界「僕たち魅力的なコンテンツを作る能力はないんだけど、君らのコンテンツは
    魅力的で訴求力があるから、こっちで配信させてよ」放送業界「お前ら自身で作れ!」
    http://artifact-jp.com/mt/archives/200607/telecombroadcasting.html
    ネットですべて完結するようになったら、異常に消費
    スピードが上がってしまって、コンテンツの商売はすごく
    続けにくそうな気がしてる。コンテンツ制作者からすると、
    消費スピードをコントロールできないメディア
    というのはコンテンツビジネスとすごく相性悪いのではないかと。

    教育テレビのお姉さんのスプーは面白いけど、
    それがお金を稼げる回路というのはあまり考えつかない。
     もちろん、気軽に消費するユーザーが増えれば、その中に
    一定の割合でお金を払ってくれるユーザーも増えるだろうけど、
    既存のビジネス以上に儲かる のだろうか?

     
     「ネットとパッケージコンテンツビジネスは相性が悪い」
     「ネットを使っても、既存のビジネス以上に稼げる気がしない」
     
    kanoseさんの記事をまとめるとこうなります。
    (間違っていたらご指摘ください>kanoseさん)
     
    実は私も、この意見に賛成です。
    特に 「既存のビジネス以上に稼ぐ」 という点については、
    かなり絶望的な見方をしています。
     
     えっ? 今までずっと ネット&デジタル
     を積極的に使えって言ってなかった?!
     
     YouTubeもiTMSも推進してたよね?
     「メディアからの脱却」 とか言ってたよね??
     
    とおっしゃる方もいらっしゃることでしょう。
    しかし、ネット&デジタルを推進することと、
    産業自体が縮退することには、私の頭の中では矛盾がありません。
     
    それは、儲けを得る「プレイヤーが違う」からです。
    判りやすく、順を追ってご説明しましょう。
     
     
    著作権を守るだけではユーザは離れていってしまいます。
    もっと消費しやすく、価格も安い娯楽が次々と登場する中で、
    コピーガードを徹底することで機能も価格も進化どころか退化する、
    という選択肢を取れば、当然ジリ貧を生むだけになるでしょう。
     
    では、著作権開放政策 を取って、Commonsに倣えば良いのかといえば、
    それもNoとしか言いようがありません。少なくとも彼らが過去10年~20年
    に渡って築き上げてきたビジネスの礎を、
     
     「開放」によって維持できるのかと問われれば、
     
    全く以って不可能だと言わざるを得ません。それほどまでに、
    彼らが築き上げてきたビジネスの規模というのは巨大だったのです。
     
     
    コンテンツ産業は今、「前門の虎」とタイマン勝負しています。
    著作権という金ヅルを維持しながら、いかにして消費者に納得商品を
    提示できるか、という戦いです。しかし、実際にはその間に、
     
     「後門の狼」にガブガブやられ中です。
     
    娯楽は音楽や映画だけではないのです。インターネットは、素人同士の
    コミュニケーションそのものが新しい娯楽であることを教えてくれました。
    格安の、しかも良質の娯楽です。
     
    そりゃあ、プロの音楽や映画が超格安で楽しめるならそのほうが
    イイに決まっています(YouTubeやWinnyがそうでした。)
    でも、高くて使いにくい制限だらけの娯楽なら、無理して売って
    くれなくてもいい、というヒトは少なくないでしょう。
    安くてそれなりに良質な娯楽なら他にもいっぱいあるのですから。
     
    では逆に、「後門の狼」をやっつければ問題は解決なのか、というと、
    結果は判りきっています。後門の狼と対峙しているうちに前門の虎が
    ガウガウと襲ってくるに違いありません。開放政策を進めれば進めるほど、
     
     コンテンツ製作者のゲインは次々と暴落していきます。
     
    Commonsこそ解だ!と声高に叫ぶ面々は、
     
     前門の虎にはどうぞ喰われちゃってください
     
    と言っているにすぎないのです。当然これは、既存のコンテンツ産業にとって
    容認できる選択ではありません。「論外」といっても言いすぎではないでしょう。
     
     
    さて、私がどうにも腑に落ちないのは、既存のコンテンツ産業に対して、
     
     「必ず助かる(=利益据え置きかプラスになる)方法はある!」
     
    という前提で誰もが議論していることです。そんな保証はどこにもありません。
    むしろ、虎と狼に挟み撃ちにされている現状、
     
     「どっちにしろ無傷で逃げ出せるワケなんてないんだから」
     
    というのが正論のような気がするのでありますが、そういう意見は
    「建設的ではない」という理由か何なのか、無視されがちになります。
     
    コンテンツ制作サイドは声高にこう叫びます。
     
     「前門の虎を何とかしよう! なあに、後門の狼は襲ってこない さ!」
     
    対して、一般消費者はこう叫ぶのです。
     
     「後門の狼はマジ最強。何とかしる! ところで、前門に虎はいません。」
     
    互いに互いの前提条件が違っているのですが、どちらも都合の悪い現実から
    目を逸らしているだけであって、実際には挟み撃ちされているということを
    再認識したほうが良いでしょう。
     
    著作権ビジネスは、制限するのが得なのか? 開放するのが得なのか?
    しかし、いずれを選択するにせよ、
     
     「現在よりもっと得」という状況を作るのは難しい
     
    というのが私の認識です。この点ではWinnyの作者である金子さんの認識と
    近いものがあります。ただ「だったら積極的に壊しちゃえ」という氏の選択は、
    当然、既得権者の強烈な恨みを買うだけにしかなりませんでしたが・・・。
     
     
    ネット&デジタル、というパンドラの箱は既に開いてしまいました。
    アナログ時代はコンテンツを高品質で配布する方法がほとんどなく、
    巨大な施設を使って、超高品質なマスターデータから大量の1次コピーを
    生産する必要がありました。アナログ時代は、パッケージメディア産業こそが、
    消費者の望むことを代わりにしてくれる、つまり、
     
     お金を払う価値のある商売だったのです。
     
    ところが、ネット&デジタルの進化が進むにつれて、消費者は気が付いてしまいました。
     
     なんだ、自分でもできるじゃん。もうお金払う必要ないじゃん。
     
    データを劣化させずに永久保存しておくことも、友人に無劣化のデータを
    分けてあげることも、もう自分自身で簡単にできるのです。
     
    当然、今まで商売にしてきたことを、消費者自身に 「自分でできるよ!」
    と言われてしまったら、コンテンツビジネス側としては商売はあがったりです。
    でも、だからといって消費者が自分自身でできることを 法律で禁止 した上で、
    それをやってあげることでお金を取る、というのは、果たして消費者にとって
    受け入れられる行為になるでしょうか? これは言ってみれば、
     
     歩くことを禁止した上で、タクシー代を取って儲ける
     
    みたいな論理です。これが 「お買い得」 に見えることはおそらくないでしょう。
    だからこう表現したのです。ネット&デジタルは 「パンドラの箱」 だった、・・・と。
    デジカメが普及するごとに街の写真屋さんが必要なくなるように、
    ネット&デジタルが普及するにつれて、パッケージメディア産業も
    10年~20年という単位で見れば、必要なくなる可能性が高いのです。
     
     
    では、YouTubeがやっていることは、コンテンツ産業の規模を縮退させるだけの
    破壊神 たる行動でしかないのでしょうか? いいえ、私はそうは思いません。
    いや、既存のコンテンツ産業から見たら、YouTubeは破壊神にしか見えないでしょう。
    YouTubeは、コンテンツ産業の ディスカウンター として登場したプレイヤーだからです。
     
    かつてNECのPC-9801は、国内のPCのシェア60%を握っていましたが、1992年、
    「コンパックショック」 とも呼ばれるDOS/V(AT互換機)の大攻勢によって、
    そのシェアは一気に縮退し、いまや数社が10数%のシェアを巡ってジリジリと
    トップ争いをする状態になっています。その間、PCの平均価格は大暴落を遂げました。
     
    その途中の1997年、NECは「PC98-NX」をして独自98アーキテクチャから
    標準のAT互換機へと路線変更します。この路線変更をせず、もっと独自路線で
    粘っていれば(vs 前門の虎)、シェア60%が崩れる ことはなかったでしょうか?
    あるいは、このAT互換機への路線変更の決断がもっと早ければ(vs 後門の狼)
    再びシェア60%を獲得できたでしょうか?
     
    私の目にはこう映ります。独自路線を維持し続ければ、いずれ大崩落が起きたでしょう。
    しかし、標準路線への切り替えを早くしたところで、それは自分の身を切り刻むだけ
    だったでしょう。すなわち、「シェア60%の栄華を存続させる方法はおそらく無かった」
    という答えがあり得るのです。それはエントロピーが増大するかのごとく 独占的利益が
    発散していく過程 であり、キッカケがはっきりすれば、あとは誰にも止められなくなります。
     
    YouTubeが既存コンテンツ産業に促そうとしている決断は、
    かつてコンパックがNECに促した決断と良く似ています。
     
    ネット&デジタルは、コンテンツパッケージの配布が、より効率的に、より小さな労力で
    実現できることを意味しており、それは裏返せば、コンテンツパッケージ販売のビジネスが、
    その巨大な規模を保てなくなることを示唆しています。
     
     今まで通り、いやそれ以上の利益を得たいが、どうすればよいか?
     
    という問いは確かに前向きです。しかし、そこに答えがあるかどうかは、
    誰にも判りませんし、今の状況は答えが見つからない可能性を後押ししています。
    そして何より消費者自身が、新たに手に入れた力を、無理矢理削がれることに
    強い抵抗感を示しているのです。
     
    時代遅れを消費者に強いる 「嫌われレガシー」 を演じるか、それとも、
    自ら改革の旗手となって、自分自身の利益を削ぐ ことを選ぶのか、いずれにせよ、
    その巨大な規模を保てなくなることを前提とした決断が必要になるでしょう。
    前門の虎も、後門の狼も、舌なめずりしている状況には変わりないのです。

    CK@デジモノに埋もれる日々 @ckom
    ブログ「デジモノに埋もれる日々」「アニメレーダー」「コミックダッシュ!」管理人。デジモノ、アニメ、ゲーム等の雑多な情報をツイートします。



    投稿者 CK : 記事URL | コラム | | 2006/07/30 23:59


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