報道メディアから「対話メディア」への重心移動

2004/11/01

[渡辺聡・情報化社会の航海図] - Yahoo、Google、Blog、RSS後の世の中
http://blog.japan.cnet.com/watanabe/archives/001809.html
 
"An Update from the Digital World - October 2004" という、
Morgan Stanleyのインターネット産業の動向レポートが紹介されています。
ちょっと面白そうなお話でしたので、ここでも取り上げてみます。
 
右の図はそのモルガン・スタンレーのレポートの中の図をまるまる引用させて
いただいたものです。この図はニュースの扱われ方を時系列で示したものですが、
読み方を示す前に、原文にあったeBayの例えを説明するを判りやすいと思います。
レポートの中では、eBayは「Tail」(しっぽ)をビジネスチャンスに変えたという
言い方をしています。一般に流通しそうなものは何もeBayで買わなくても良く、
eBayは「手に入りにくいレアモノを高く」、「中古品でもいいから新品より安く」
という「あたまとしっぽ」の市場を新しく切り開いたのだ、というワケです。
 
この1枚目の図は、BlogとRSSが既存のマスメディアのニュースに対して
どのような位置付けになるのかを、そのeBayのグラフになぞらえて説明して
いるものです。すなわち、まず、マスメディアが精査する前に情報を流して
しまうという「不確定情報をできるだけ速く」という段階があり、次に、
マスメディアが取り上げると、一気に正確な情報が大量に流れてきてニュース
のメインストリームが形成される、そして最後に、マスメディア上での扱いが
沈静化してきたあとに、情報通だけがその分野をしっかりフォローするという
段階が残ります。真ん中の水色の部分はマスメディアの担当で、「あたまとしっぽ」
の青色を補完するのがBlog+RSSのようなネットメディアだという理解になります。
 
これは、時事ニュースのような「誰もが同じように共有すべき薄い話題」を
取り上げるには概ね正確なモデルだと思います。しかし、情報の氾濫が進む
社会に於いては、こうした「時事ネタ」が重視される機会は減る一方です。
 
なぜなら、情報の取得に掛かるコストがどんどん低くなっているのに対し、
「知っておかなければならない時事ネタ」の総量は大して増えないからです。
情報取得コストが半分になれば、時事ネタを今までの2倍掘り下げて調べるか
というと、そんな興味の薄い分野に労力を割り振ることは普通はしないでしょう。
 
すると何が起こるのか。余った時間は、自分の好きな分野の
「Tail」を深める ために使われるのです。その意味で、これから到来する
情報社会は「情報エンタテインメント社会」と言い換えても良いでしょう。
チャネルが細分化された趣味の世界に於いて、自分の知的欲求を極限まで満たし、
それを自身の現実の生活に於いて昇華させていくことが、これからの時代の
「ネットとの付き合い方」 のメインストリームになると考えられます。
 

この2枚目の図は先の1枚目の引用図に、私が書き加えをしたものです。
1枚目の図では、「メインストリームはマスメディアじゃなければ無理だけど、
ネットの口コミ情報も補完的な意味合いだったら使えないこともないよ」
というスタンスがアリアリと見えますが、この2枚目の図は随分様相が異なります。
総花的なマスメディアは個々のチャネルを深堀りすることができず、「最初の
きっかけ作り」を担うに留まります。そこから先の展開を知りたいと思ったなら、
 
 ネット上の対話経緯(インタラクション)を追い続ける
 
方向にシフトしなければなりません。言い換えれば、本当に知りたかった情報とは
その後の対話の進行(他者が何を考えているのかという動向把握)自体なのです。
例えば「製品ニュース」で考えてみると、カタログスペックは最初のニュースで通り一辺の
情報が得られますが、使い心地や不具合などの情報は、その後のユーザ間の対話を追って
みないと判りません。そこで得られる情報は初期のニュースよりも何倍も価値が高いのです。
 
「そんな情報を欲しがるのは一部のマニアだけじゃないの?」と切り捨てるなかれ。
前述したように、ネットツールの進化によって、人々は今までより沢山の情報を
格段に低いコストで手に入れる術を持つようになりました。その力は、好きでもない
「時事ネタ」の収集強化に充てられることは有り得ません。従って、一般人が
各々の趣味のチャネルに向かってマニア化する度合いは、間違いなく高まるのです。
 
 「テレビを眺めるように2ちゃんねるを読め」
 
これは私が常日頃から連呼しているコトですが、ユーザ間の対話それ自体が
メディア化しているのを、私たちは毎日目の当たりにすることができます。
3枚目の図は、正確性と即時性が相容れない関係であるという図です。
私たちは今まで、図の左上に位置する「堅いメディア」のことだけをメディアと
呼んできました。しかし、それが実はとてつもなく小さい部分であったことに、
昨今の情報氾濫によって気が付かされてしまったのです。図の右下に位置するのは
掲示板など玉石混淆の「柔らかいメディア」、Blogやfanサイトはその中間を
埋めようとしています。これらもまた、全てが同様に、内部(自己)に対する外部の
状態を把握するための「メディア」です。(隣のオバサンのウワサ話もメディアです)
 
誤解のないように補足しておきますと、「堅いメディア」には今までどおりの
重みがこれからも存在するでしょう。しかし、今までどおりの情報は、今までの
数分の一のコストで取得できることが判っている以上、余った力はやはり全て
「柔らかいメディア」の掘り下げに充てられていくと考えるのが自然でしょう。
「堅いメディア」が唯一無二の強大な影響力を誇っていたのは、前時代に於いては、
人々がそれを取得するだけで精一杯だった、つまり「柔らかいメディア」に
手を付ける余裕がなかっただけの話なのです。今後、「堅いメディア」は
大きさは変わらずとも、相対的重みは減っていくことになるに違い有りません。
 
大衆が「柔らかいメディア」の扱い方に慣れてくる時代。細分化されたチャネルを
個々人の嗜好に沿って自由に追う時代。そんな時代の到来が予感されることと、私が
デジモノREVIEW」などという酔狂な遊びを始めたことは、無関係では有りません =)


2004/11/01 [updated : 2004/11/01 16:41]


この記事を書いたのは・・・。
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tuttin 2006/01/28
柔らかいメディア、堅いメディア
akkun_choi 2007/01/13
正確性と即時性は反比例
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▼ コメント ▼

No.123   投稿者 : しげ   2004年11月 4日 23:12

そういわれてみれば今回の地震にしても、自分が真っ先に調べたのは
2ちゃんのまちBBS(正確にはまちBBSは2ちゃんじゃないらしいですが)の
書き込み郡でしたし、その後もブログや個人サイトで情報をあさりました。
(お堅いメディアは一時期は「奇跡の救出劇」ばっかりでしたし。)

http://tabetan.2log.net/
例えばこういった情報は、まさにおっしゃるとおりの”柔らかいしっぽ”(あれ?)
ですよね。



No.126   投稿者 : CK   2004年11月 5日 14:06

●しげさん
「たべたん」は思わぬ脚光を浴びていましたね。急にカップめんやパンだけになったり、
場所が車内になる辺りを見て、見ているこちらもいろいろ考えさせられてしまいました。

2ちゃんねるは「社会を映し出す鏡」だと言う人がいます。私もそう思います。
いや、マスメディアがその鏡ではなかったことに気が付いた、というべきでしょうか。
「欲しい情報」を自分で手繰れるようになると、
「与えられた情報」が如何にちっぽけなものだったのか良く判りますよね~。



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